第69話 半分こ
そう
父さんと母さんは、引っ越す前に住んでた街に、今もいるんだ
たぶん、二人とも仕事を変えないまま引越しだけして、はじめはここから通ってたんだ。
俺達兄弟が大きくなるにつれ、帰ってくる頻度が下がったのは、やっぱり父さん達もキツかったんだろう
それで兄さんはあの時、俺に申し訳なさそうな顔をしたんだな。
自分のせいで、俺達家族が辛い思いをする事になった、って思ってたんじゃないかな
そんなことないのに
確かにこの家にやって来て、新しい環境に馴染めなくて、俺は殆どぼっちになったかもしれない。
でも、それは俺のせいだ。
兄さんのせいじゃない。
小さかった頃には分からなかったけど、父さんも母さんも、自分達に出来ることは、全部俺達のためにしてくれてたと思う。
兄さんも、いつも俺と一緒にいてくれて、何かあれば守ってくれてた
そう考えたら、俺は今まで家族にして貰ってばかりで、何かしてあげた事なんてあるんだろうか
「蒼くん?」
「へ?あ、うん。分かった」
「…もしかして、気乗りしないの?」
「ううん、大丈夫。ちゃんとご挨拶して、それでちゃんと認めて貰わないとね」
「蒼くん!」
満面の笑みで俺に抱きついてきた静琉を受け止め、俺も優しく抱きしめる。
彼女のために、そして俺のためにも、きちんとする事はしないとな
それにしても母さん…
なんで俺より先に静琉に言うかなぁ…
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
冬休みに入り、課題、バイト、静琉、のサイクルで、俺は忙しいながらも楽しく充実した時間を過ごしていた
結局、お互いの誕生日は何かプレゼントを買うことなく、二人でスイーツバイキングに出かけた。これは、何かこういう形に残る物は指輪だけでいいかな、という話に二人でなったからだった
でもクリスマスには、俺と静琉でお互いに色違いのマフラーを贈りあった。これも二人で話して決めた
「誕生日は特に何も買わなくていいから、クリスマスには普段使い出来る、いつも身につけられるような物にしようよ」
「うん。それもいいと思う」
「私はこれ…いつも付けていられるけど、蒼くんは付けられないでしょ…?」
「うん…さすがに高校には指輪して行けないから…。ごめんね…」
「ううん、それは仕方ないからいいの。でも、代わりになる、何かにしよ?」
「うん、分かった。ありがとう」
「えへへ…」
そして二人で一緒に選びに行き、マフラーにすることで決まった
家に帰って封を開けてみると、
「お揃いだね」
「うん、こういうのもいいね」
「蒼くん、グレー似合ってるよ」
「静琉の白も可愛いね」
「もう…可愛いとか…照れる…」
え…マフラーのことなんだけど…
もちろんそんなツッコミをするわけもなく、でも、まるで子供のように嬉しそうな笑顔を見てると、俺も嬉しくなってしまって、ついつい頭を撫でてしまう
「ぅん…もう…すぐ頭撫でるんだから…」
「あ…ごめん、つい…。髪型とか乱れるよね、もうしないように気をつけるから」
「だめ!」
「本当にごめんってば」
「だから、やめちゃダメだから!」
「へ?あ…そうなの…?」
「うん…だめ……もっと…」
「は、はい…」
ぽすん、と俺の膝の上に頭を乗せると、少し頬を赤く染めて、そのまま「撫でて…?」とせがむ彼女。
ゆっくりと優しく撫でてあげると、嬉しそうに目を細め、「もっと…」と甘えてくる
大学生で年上のお姉さんのはずなのに、まるで子供のようにコロコロとその表情を変え、いろんな顔を俺に見せてくれる彼女
「静琉…?」
「なぁに?」
「静琉……」
「うふふ…蒼くん、なぁに?」
「…可愛いよ」
「えへへ…ありがと」
「…好きだよ」
「も、もう!急にどうしたの?」
「うん…どうもしない…」
「そ、そう?」
静琉は少し不思議がってる感じだったけど、俺がもう一度「好きだよ」と言って頬にキスすると、俺のお腹にガバッと抱きついてきて
「私もだよ…蒼くん、だーい好き!」
高校に入って最初の誕生日とクリスマス
去年は受験モードだったし、それより前は兄さんと、もっと前は、もちろん父さん母さんも一緒だった。
その時だって、もちろん祝ってくれたし、クリスマスにはプレゼントも貰って嬉しかったし、楽しかった
そして静琉と過ごす今年は、こんなに甘くて幸せな時間を、俺に与えてくれた
「静琉…」
「蒼くん…?」
「ありがとう」
「なんでありがとうなの?」
そう言って笑う彼女
俺が思っているように、同じように、彼女も思ってくれてたらいいな
「じゃ、ケーキ食べようよ」
「あ、なんか誤魔化してるよね」
「そんなことないよ。あれ?いらないの?」
「いるに決まってるでしょ!」
「はいはい。半分こね」
この年のクリスマスケーキは、二人で一緒に選んだ五種類のショートケーキを、全部二人で半分こして食べましたとさ
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