第67話 オレンジ色


「蒼くん…何してんの?」



射抜くような冷たい眼差し。

その視線は繋がれた手に向けられている


俺は慌てて手を振りほどいて駆け寄ろうとしたけど、離した手をまた掴まれる


(なにやってんだよ!この人!!)


振り返ると、お姉さんは静琉の方を見ている


「なんだ、速水さんの彼氏だったんだ」

「そうよ…だから手を離して…」

「彼氏ができたとは聞いてたけど、まさか高校生とは思ってなかったから。ごめんね」

「…手を離して」

「その子が言ってた子なんでしょ?サークルも入ってすぐなのに辞めちゃって」

「…早く離して」

「分かったわよ。もう」

「宮田さん…」

「なぁに?」

「…なんでもないわ」


このお姉さんは静琉の知り合いのようだ。

でも…目の前で繰り広げられるこの光景を、俺は当分忘れることは出来ないだろう


「蒼くん。行くわよ」

「うん…」


そのままこの場を去り、静琉に手を引かれてメインステージの近くまで来る


「蒼くん…」

「ごめん…静琉がナンパされてそうだったから、助けなきゃ、って思ってたら、なんか逆にこんなことになっちゃって…」

「うん…」


たぶん、ことの成り行きは把握したんだろうけど、面白くないだろうな。

せっかくお互い楽しみにしてたのに


何か出来ないかな…


「静琉…?」

「うん…」

「ねえ、普段は何処でご飯食べたりしてるの?俺、いつも静琉がどんなふうなのか、ちょっと興味あるな。催しとか見て回りながら、そういうのも教えて欲しいな」

「蒼くん…」

「ね?連れてってよ」


実際そういうのも知りたかったというのはあるけど、せっかく二人で、俺にとっては普段入る事のない場所で、いつもと違うデートにしたかった


少し俯き加減だった彼女の顔を下から覗き込み、「ね?お願い」と頼むと「も、もう!」と怒ってしまった…


なんでだ…


「そんなの反則だってば!」

「なんで…」

「もう…そんな格好でそんなのずるい!」

「静琉が選んでくれたこの服、どう?」

「くっ…!…に、似合ってる…」

「そう。よかった」

「…ねえ、わざとだよね?」

「なにが?」

「分かっててやってるよね?」


さっきみたいに表情を消して怒ってた時とは違って、照れたように顔を赤くして怒る静琉は可愛すぎる。

最近なんとなく、こう言えばこうなるかな、っていうのが分かってきたと思う


「ねえ、どうなのよ!」

「そんなわけないって」

「もう…」


そっぽを向いて「ふんっ」とか言ってる様子が可愛い。もう無理

そっちこそわざとだろ…


俺は仕方なく「よく分かんないけど、ごめんね」と言って頭をポンポンすると、「へ…」と声にならない声を上げて、静琉は真っ赤になってしまった


「ちょ、ちょっと!こんな所で!」

「分かった。帰ったらいっぱいポンポンしてあげるから、もう行こう?」

「…うん」




その後は屋台で買ったクレープを食べたり、構内を案内してもらいながら、また別の屋台でクレープを買ったりして、楽しく過ごした


「蒼くんって、クレープ好きなの?」

「クレープというか、甘いものが好き」

「そういえば、シュークリームとかよく買ってたよね」

「あ、ごめん。もしかして、あんまり好きじゃなかった?」

「ううん。そんなことないよ。私も甘いもの好きだから全然平気」

「ならよかった」

「ねえねえ、今度、スイーツバイキングとか行ってみない?」

「え!?いいの?」

「おぉ…蒼くん、食いつきいいね…」

「だって、前から興味はあったんだけど、一緒に行くような友達もいなかったし、一人で行くにはハードルが高すぎるし…」

「でも、今は私がいるもんね?」

「うん。今度一緒に行こ?」

「うん、二人で行こうね」



また静琉と一緒にお出かけする楽しみが増えたな

と思いながら一緒に帰っていると、


「…あの、蒼くん」

「なに?」

「帰ったら…その…」

「うん、どうしたの?」

「えっと…いっぱいポンポンしてくれるんだよね?」



オレンジ色の夕日を浴びながら、恥ずかしそうにそう言う彼女

その頬が赤いのは、夕日のせいだけじゃないのは分かってるんだけど、静琉がどんどん可愛くて綺麗になっていく気がして、いつまでもその隣でいられたらいいのに、と思うばかりだった





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る