第66話 何してんの?


静琉に手を引かれ、大学の敷地に入ると、


これが大学…これが学園祭……



広い芝生広場に、たぶんメインだと思うステージがあり、その向こうにもう一つ見える。

彼女の話では、別の場所にもう一つあるそう


何軒かの屋台も連なり、というかこれも模擬店らしいけど、そういった催しも高校のそれとは違う


広い…そしてでかい…

一人なら迷子になる自信がある


「あの…手離さないでね」

「急にデレてこないでよ…もう…」


嬉しそうにもじもじしてるけど、そうじゃないから。普通に不安なんだよ


とは言えるわけもなく、


「俺には…静琉しかいないんだから…」


そう。ここで知ってる人は彼女だけ。

静琉だけが頼りなのだ


俺が必死の思いでそう伝えると、静琉はとろんと蕩けた表情になって、


「そ…蒼くん…私も…蒼くんだけだよ…」

「え?静琉はクラスの人とか、知り合いいるでしょ?」

「……なんの話?」

「だから、俺にはここで静琉以外に知り合いなんていないから、ちょっと不安なんだよ」

「…そう」


なぜかスンと表情を消した彼女は怖かったけど、大学の敷地に入ってから、やたらと視線を感じる



「…ねえ」

「どうしたの?」

「なんかさ…やたら視線感じるんだけど…」

「ああ、そうかもね」


なんか、髪切ってすぐくらいの時と同じような感じで、見られてる気がした。そしてそれは気のせいではなかったらしい


緊張してるのもあってか、俺はお腹が痛くなってきた……恥ずい…



「あの…トイレってどこかな…」

「ん?ああ、あの建物にもあるし、広場の奥にもあるよ」


距離的に近そうなのは広場の方だな


「じゃあ、ちょっと行ってくるね」

「分かった」


少し早足で広場の中を突っ切りトイレに入る


初めの頃に比べれば慣れてきたとはいえ、まだ一人でいた頃の性格は健在だ。

しかも周りは大学生ばかり。みんな自分より年上の人達で、今の俺に緊張するなと言う方が無茶だった


中で自分を落ち着かせ外に出ると、彼女は少し離れた場所で待ってくれていた。

そしてその隣には、知らない男が笑顔で静琉に話しかけている…


え…なにこれ…どうしたらいい…?


いや、どうしたらいい?じゃなくて、ナンパだろ、これ

だって明らかに静琉の顔が困ってるもん。

いや、でも…なんて言って入ればいいんだ…


そんなふうに悩んでいると、


「お兄さん、一人?どこの大学なの?」


え?


振り返ると、スラッとして静琉より明るい髪色の、いかにも「大学生のお姉さん」的な綺麗な女の人が、俺に微笑んでいた


「え…あの…俺は…」

「そんな警戒しなくて大丈夫よ」

「は、はい…」

「あれ?もしかして学生じゃない?」

「は、はい…」

「え!高校生?誰かの弟さん?…でも問題ないよね…?」

「いや、あの、俺…」

「じゃあさ、お姉さんが案内してあげる」

「でも…」

「ふふ…大丈夫よ。イタズラしたりしないから。ね?」


なんだなんだ

最初の頃の静琉とちょっと似てるぞ

大学生ってこんな人ばっかりなのか?


「行こ?」と言って、俺の手を取って歩き出そうとするお姉さん


(静琉…助けて…!)


そんな事を思ったけど、助けなきゃいけないのはお前だろ、と、もう一人の俺が突っ込む


そうだよな…何考えてたんだ…


「…すみません」

「え?」

「彼女を待たせてるんで…すみません」

「あ、やっぱり彼女いたんだ」


俺は「じゃあ」と言って、手を離してもらって静琉の方に向かおうとしたその時、


「…蒼くん?」



あ…静琉…


たぶん困ってる俺に気付いて、ナンパを自力で振りほどいて来てくれたんだ


ありがとう…こんな俺でごめんね


俺が「ありがとう」の「あ」の口を開けたその時、俺は彼女の表情に気付き、言葉に詰まり続きが言えなくなってしまった



「蒼くん…何してんの?」





激おこだ……




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