第63話 なんかずるい
月曜日。普段通りに登校する。
先週末の文化祭の余韻を引きずる空気もありつつ、でもそれを上回る気だるい空気。
そう
今週の木曜金曜に、中間テストがあるのだ
「緋村くんはどう?」
「ああ…うん、一学期はそこまで悪くはなかったけど、良くもなかったよ…」
うちの高校は一学年240人で6クラスなんだけど、その中で一学期は130~140位くらいと、俺の成績はちょうど真ん中より下くらい。赤点を取るほどではないものの、ずっと20番以内をキープしていたらしい兄さんには、遠く及ばない
「え?出来そうなのに。嘘ついてない?」
「いや、本当だから」
今話してる隣の仁科さんは真面目だし、クラス委員の織田くんも相田さんも成績優秀。
瀬野くんも前に聞いた時の話だと、俺よりかは成績が上だった
なんかヤバいな。
兄さんと同じ高校に入る事だけしか頭になくて、その後のことが疎かになってたな。
ずっと一人でこうやってみんなと話すような機会もなかったから、危機感とかなかった
部活動もやってない帰宅部の俺。今掛けてるこのメガネは伊達なのか?いや違う…はず…
これは真剣に考えないとな
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「ふ~ん?それで私に助けを求めてきたと」
「助けを求めたかどうかは…」
「じゃあ見てあげなくてもいいんだ」
「すみませんお願いします」
「…即答だね」
俺は考えた末、大学生の静流に勉強を見てもらえないかとお願いした
先週は文化祭、今週は中間テストということで、暫くバイトは休んでいるし、平日にほとんど会えてなかったので、彼女は二つ返事で了承してくれた
「でも、イチャイチャしないからね?」
「そりゃそうでしょ。じゃないと俺も困る」
「本当に、本当にしないからね?」
「うん」
「いいの?本当にいいの?」
「いいよ。じゃ、始めようよ」
「無理しなくてもいいんだよ?」
「とりあえず数学から始めるね」
「え?」
「分かんないところあったら聞くから」
「…うん」
シュンとしちゃって申し訳なかったけど、静流もすぐ立ち直って、真面目に見てくれた。
本当にありがたい。
集中してると時間の経つのも早くて、時計を見ればもう10時になろうとしていた。
遅くまで引き止めるのも悪いから、今日のところはここまでにしようと思い、
「もうこんな時間だし、今日はありがと」
「うん。全然大丈夫」
「遅くなるとなんだし、今日はここまでにしようかな」
「え?いいの?私はまだやってもいいよ?」
「さすがにそれは悪いよ。ね?送るから」
「あ、大丈夫」
「いや、夜道を一人で帰らせるわけないよ」
「え?」
「だから、ちゃんと送って行くから」
「え?帰んないよ?」
「え?」
「え?聞いてないの?」
「何を?」
「私の好きな時に泊まっていいって」
「何それ…そんな話、初耳なんだけど…」
「お義母さんが、ちゃんと蒼くんに言っておくから、って言ってたんだけどね」
え…まじで…?
そして静流は「ほら、ね?」と言って、Lineの母さんとのトーク画面を見せてくれる。
彼女が言ったように、母さんはそういうふうに静流にメッセージを入れていた
「だから、テスト期間が終わるまで、学校から帰って来たら、ずっと勉強見てあげる」
「うん…ありがとう…」
もちろん静流のその厚意はありがたいし、本当に助かるから感謝しかない
でも、母さん…
俺の知らないところで話を進めないで…
「じゃあ、お風呂入って寝よっか」
「うん。先入っていいよ」
「え?一緒に入るでしょ?」
「いや…今日はいいよ」
「なんで?」
「というか、テスト終わるまではそういうのはなしで」
「そんな…」
ガックリと肩を落として項垂れる姿は、それはそれで可愛いな、とか思うけど、さすがに今回は、というより、これからはきちんと考えて行動しないと
…でも、ちょっと可哀想になってきたな
そこで俺は、彼女の頭を撫でながら、優しく伝える
「代わりに、テスト終わったら…ね?」
「へ!?」
「学園祭にも連れて行ってもらうんだし、終わったら一緒に遊ぼ?」
「っ!…蒼くん…なんかずるい…」
「え?なにが?」
「なんか…なんかずるいの!」
ポフポフと音がしそうな感じで叩いてくるけど、少し頬を赤く染めた彼女は可愛くて、勉強で疲れた頭も、その顔を見てれば癒される
はぁ…好き過ぎるよ……
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