第64話 もういいです


週明けの月曜日から勉強を見てもらうことになったけど、静流はバイトでいない時間以外は俺の相手をしてくれた。

それだけでもありがたいのに、毎日夕飯まで作ってくれ、感謝しかなかった。




彼女のおかげもあって、なんとなくしか分かってなかったところや、これまで分からないままにしてた箇所、そういったところが理解出来るようにはなれたと思う。


テストもなんとか終わったけど、たぶん、今までの中で、一番の手応えだったんじゃないだろうか



「やっと終わったな」

「そうだね」

「お?なんか余裕っぽいな」

「そんなことないよ」

「その顔は自信ありか?」

「一学期よりはましだと思う、ってくらい。瀬野くんは?」

「俺はいつも通りかな」


これも静流のおかげだな


「テストも終わったし、パーッと遊ぶか」

「はは。それもいいね」

「明日とか空いてるか?」

「あ…ごめん…。この週末は予定が…」

「そっか。まあ、仕方ないよな。どうせあのお姉さんだろ?」

「うん…まあ…」

「はぁ~、いいよなぁ。バイト先で知り合ったんだよな?」

「そうだね」

「俺もバイトしてみようかな」

「あ!そういえば…」

「どうかした?」

「いや、ずっとバイト休んでたし、来週からまた出勤するから、シフト見に行かないと、って思っただけ」

「お!じゃ、今日、これから緋村のバイト先に行こうぜ」

「え?」

「テストお疲れ様会だよ」

「うん、分かった」


そして瀬野くんが声をかけてくれ、前回と同じメンバーで行くことになった





┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


店長と少し話をして、シフトを確認してからみんなの所に戻る。

今日は静流もバイトに入っていて、カウンターでオーダーを聞いているけど、金曜のこの時間、俺達のような高校生がたくさんいて忙しそうにしている


「俺達みたいな感じで来てるのが多そうだな。なんか悪いことしちゃったか」

「そんなことないよ。暇よりは忙しい方が、店的にはありがたいんだしね。それに、少ししたらすぐ落ち着くよ」

「そうなの?」

「たぶんね」

「へぇ~」


土日のお昼はさすがに忙しい時は半端ないけど、夕方は混雑しても、ピークはそこまで長くは続かない場合が多かった。

思った通り、今日もそういう感じみたい



そしてカウンターが暇になったので、静流は客席のテーブルを拭いて周りはじめた


「あの…緋村くん…」

「どうしたの?相田さん」

「今、彼女さんと話せないかな…」


え…それは…



たぶん、例の件で謝ろうとしてくれてるんだろうけど……

少し話すくらいなら問題ないだろうけど、あまり長くなったり、万が一揉めたりし始めたら、収拾つかなくなりそうで怖い


どうする?と、俺が悩んでいると、静流の方から声をかけてきた


「テストお疲れ様。みんなゆっくりしていってね」


思ったより普通のトーンでそう言われ、少し拍子抜けしてしまった。すると


「あの…」

「どうかしました?」


相田さんが意を決した様子で声をかけ、静流は営業スマイルで答える


「すみませんでした」

「え?」

「その…私なんです…」

「…ああ、あの事?」

「はい…本当にすみませんでした」

「あ、今バイト中だし、お客さんに頭下げられるのは困るので」

「…!…はい、すみません」

「ふふ。分かりました。もういいです」

「え…」


前に来た時のような、射抜くような視線ではなく、たぶん普段働いてる時と同じ表情で相田さんを見つめ、「じゃあ」とペコリと頭を下げて、他のテーブルに行ってしまった



「あの…」

「うん。よく分からないけど、本人がもういいって言ってるから、いいんじゃないかな」

「そうなのかな…」

「え?何かあったの?」

「え!?いや、何もない…と思う…」

「え~、緋村くん、なんか怪しい」

「怪しくないヨ…」

「キョドってる…」



とにかく、静流はああは言ってたけど、でも無理してる感じでもなかったな


どうしたんだろう


また後で聞いてみようか





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る