第58話 うちの子の


翌朝、俺は久々に、本当に久しぶりに母さんに叩き起された


「ちょっと!あんた文化祭の日に寝坊する気?舐めてんじゃないわよ!!」

「す、すみません…」


昨日はなんとか起きれたけど、たぶん両親が帰ってきてるからって油断してたんだろう。

そういえば、スマホのアラーム、セットした記憶ないもん…


「ああもう!ほら!さっさと行きなさい!」


まだ少し寝ぼけててぼや~っとしてた俺に、容赦なく母さんは詰めてくる


「はい、いってきます…」


少し駆け足気味に、いつもの道を行く。

こんな時、自転車でもあればいいのに




┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


おかげさまで遅刻になるようなこともなく、教室まで辿り着く。


今日は土曜日で、クラスメイトの中でも家族が来るから、という理由で「この時間は抜けさせて欲しい」という要望は織田くん達が聞いてくれていた。

確かうちは昼過ぎには来ると言ってたので、俺は2時から抜けさせてもらうことに。それも両親には伝えている



時刻は1時半を過ぎ、あと30分くらいだな、なんて思っていると、表でザワつく気配を感じる


「あの親子、凄くない?」

「うん。お母さんとお姉さん、綺麗…」

「誰の家族なんだ?」

「でもあのお姉さん、どっかで見た気が…」

「そうだよね。どこで見たんだっけ?」


俺は「まさかな」と思いながらも、バックヤードとの仕切りに使っているカーテンを捲り、覗いてみる


「あ…」

「ん?緋村、どした?」

「いや、あの…」

「え?もしかして、家族さん?」

「まあ…そうだね…」

「「ていうか、あれ…」」


瀬野くんと小林さんも俺の後ろから一緒になって覗いてたけど、ジト目で見てくる


「緋村くん。なんで彼女さんもいるの?」

「なんでだろうね…」


静琉も来てくれてるのは嬉しかったし、確かに母さんはなんとかするとは言ってたけど、家族じゃないのにどうやって入ったんだろう


俺に気付いた母さんは、朝、俺にキレてた人とは別人のような笑顔で、こちらに控えめに手を振る


「お母さん、美人だな…」

「ほんとにね…」

「え…そうかな…」


子供の頃からよく言われた気がするけど、母さんの影に隠れた父さん…可哀想……


「緋村くん。家族さん来てくれたの?2時からだっけ?なんなら今抜けてきてもいいよ?今なら大丈夫だし」

「そんな、相田さん、悪いよ」

「30分くらいなら前倒ししていいよ?待たせるのも悪いだろうから」

「ごめん、ありがとう」



相田さんの言葉に甘えて抜け出した俺は、三人の元へ


「みんな早かったね」

「蒼はウェイターさんやらないんだ」

「ああ…そういうの慣れてないしね」

「やればいいのに」

「お母様、私もそう思います」


昨日はどうなるかと思ったけど、ニコニコ顔の静琉に、ほっと胸を撫で下ろす。


(母さん、ありがとう)


俺を見た母さんは、察したように軽くウィンクしてそれに答える。

父さんは…うん、なんかごめん…


「ところで、静琉のことはなんて言って入ってきたの?」

「あらまあ、静琉ですって」

「いや、あの…」


ついいつものように言っちゃったけど、昨日はさん付けだったな。ちょっと恥ずかしい…


「まあ、それはいいとして、静琉さんは私達の娘って言ってきたわ」

「そうなの?」

「そうよ。もしかしたら、いえ、たぶん、本当に娘になるわよ。でしょ?」


母さんはそう言って静琉の方に視線をやると、彼女は少し恥ずかしそうに、でも、嬉しそうに頷いた


あ…これ…照れるよ……


「たがら、あながち間違ってないわ」


母さん、凄いな…

そして後ろの父さん…お互い頑張ろうね…


「でも、あなたに姉がいないのは学校にはバレてるんで、ちゃんと先生が納得するように伝えておいたから」


え?どういうこと?

じゃあ、結局なんて言ってきたの?


俺はそう聞こうと思って向き直ると、俺が聞くよりも前に、母さんはドヤ顔で言った


「彼女はうちの子の許嫁です、ってね」





……え?






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