第44話 また明日
「これは運命だ、って思っちゃったんだ」
「え…?」
屋上から降りてきて、相田さんと二人で昇降口まで歩いてきた
「私もね、あれから他に誰も好きにならなかったわけじゃないの。蒼介くんが転校した時、まだ小学校の一年生だったし、時間が経てば、やっぱりどうしても記憶は薄れていくし、だから…」
「そりゃそうだろうね」
「ごめんね」
「いや、それは謝るとこじゃないよ」
「私もね、中学二年の時に転校したの。親の仕事の都合でね」
「そうだったんだ」
「それで、ふと思い出したの。昔好きだった男の子の事を。あの子、今頃どこで何してるかなぁ、なんてね」
俺に目線を合わせることなく、少し遠くを見ながら、相田さんは話している
「それから高校に入学して、入学式のあと今のクラスで、先生に指名されてクラス委員になって前に出た時、その時蒼介くんを見つけて、完全に思い出しちゃったの。あの時の、みんなにお別れを言ってたあなたと、あの約束と、なにより、あの頃の私の気持ちを…」
「そっか…」
「うん。こんな偶然ありえない、って。これは絶対に運命なんだ、って。で、あとは…まあ、昨日話した通りなんだけどね」
そう話す彼女は、やっぱり俺の記憶の中にもいるあの子で、懐かしくなるのと同時に、軽率だった自分に憤りを感じてしまうのも事実だった
「本当に、ごめんね」
「え?なんで蒼介くんが謝るの?」
「俺がもっと…もっとちゃんと考えて行動してれば、みんなが辛い想いしなくてよかったんだよね」
「そうかもしれないけど、でも、私は後悔とかしてないよ」
「え?」
「うん。もちろん、蒼介くんや彼女さんには申し訳なく思ってるよ。でも、屋上でも話した通り、もうスッパリと諦められそうだし」
そう言った相田さんの顔は、屋上で泣いていた時とは全然違って、晴れ晴れとしたようにも見えた
「本当にごめんね。機会があれば、ちゃんと彼女さんには謝るし、私に出来ることなら、なんでもするから」
「うん…」
「今更だけど、彼女さんには本当に申し訳なくて、何言われても何されても仕方ないと思ってるから…」
「うん…」
何言われても何されても、とか言ってくれてるのは、その気持ちも含め分かるんだけど、それ、そのまま静琉に伝えたら、たぶん…
「あ、あとね」
「う、うん?」
「本当に…ありがとう」
「え…なにが…?」
「一日だけだったけど、私、幸せだったよ」
彼女はそう言って、ニッコリと微笑んだ
ああ…もう…!
こういうの辛いよ…
「最後に一つだけいいかな」
「な、なに?」
「私が言うのも…ちょっとお門違いなのは分かってるんだけど…」
「うん…」
「彼女さんと…ずっと幸せでいてね」
「え…」
「お願いね?」
「ああ…分かってる」
「うん!」
校門まで来たのでここで別れる
「それじゃあ、緋村くん、また明日」
「うん、また明日」
別れ際の彼女は、ついさっきまで俺と親しげに話していた、あの頃のみおちゃんじゃなくて、俺が高校に入学してから見てきた、いつものクラス委員の相田さんだった。
これが彼女なりのケジメなんだろう
今回、俺が思考を放棄して流れにそのまま流された結果、静琉はもちろん、相田さんにも辛い想いをさせたと思う
付き合いってやっぱり難しいな
一人でいた時は、こんな事で頭を悩ます事なんてなかった。
じゃあ、元通りに一人でいる方がいいか?
…うん、それも違うな
こういう失敗はもう懲り懲りだけど、少しずつでも慣れていかないとな。
それも静琉と約束してたはずだし、もう彼女を悲しませるようなことは絶対にしない
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