第43話 ごめんね


翌朝、校門の横に、艶のある美しい黒髪の美少女が目に入る。

彼女は少しキョロキョロと、誰かを探している様子が伺える


「あ!蒼介くん、おはよう!」

「…うん。、おはよう」

「え…あ、そっか…もう…」

「うん…」

「ごめん…なさい…」


なんか、俺も複雑だった


相田さんに対して、怒りや戸惑い、それとキスしてしまった事に対する後悔のような、申し訳ないような、そんないろんな感情が絡まっていた


でも、一度ちゃんと話をして、ケジメだけはつけておかないと


「今はもうあんまり時間ないから無理だと思うけど、昼休みか放課後、どっちか時間取れない?話がしたいんだけど」


俺は自分で思ってたよりも、ずっと低いトーンで彼女にそう告げる


少しビクッとしながらも、「じゃあ…放課後に…」と相田さんは答えた


その後、俺達は離れて歩いて校舎に向かい、

その日一日、相田さんは俺の所に来ることはなく、視線をこちらに向けることもなかった





┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄


そして放課後


ホームルームも終わり、皆が帰り支度を始め教室内も半分くらいは帰ったかな、という頃


じっと自分の席に座り、俯いていた相田さんの所に俺は向かおうとする


「あの…緋村くん…?」

「え?なに?仁科さん」

「その…相田さんと、なにかあったの?」

「ん~…特にないかな」

「あの…もしかして…」

「ん?なに?」

「もしかして…緋村くん…相田さんと…」

「たぶん、仁科さんが思ってるような事は何もないし、何も変わらないよ」

「え…」

「じゃあね、また明日」

「うん…」


昨日から考えて出した俺の結論はそれだった





┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄


今、俺と相田さんは昨日と同じように、また屋上にいる


「ごめんなさい…」


綺麗に頭を下げ、そのまま動こうとしない相田さん


「相田さん。一つ聞きたいんだけど」


どうしても分からない事が、俺には理解出来ない事があった


「なんでこんな事したの?すぐバレるのは分かってたんだよね?ねえ、どうして?」


そう。遅かれ早かれ、あの画像が加工したフェイクだって事がバレるのは、頭のいい相田さんなら分かってたはず。それを分かった上で、なんでこんな事をしたんだ?


「ごめんなさい…」



少し待ってみたけど、彼女はそう言った後も頭を下げたまま動かず、その先を語ろうとはしなかった


「…言えないの?」

「……私…」

「うん」


相田さんは顔を上げ、泣き出しそうな顔でこちらを見ながら言った


「私…蒼介くんが言ったみたいに、すぐバレるのは分かってた」

「うん、だよね」

「でも、どうしても…」

「うん」

「悪い事なのは分かってたんだけど、どうしても諦めきれなかったの…ごめん…」

「それは…その、お嫁さんに、って話?」

「ううん、違うの。あんな綺麗な年上の彼女がいて、あの人から、蒼介くんを奪おうなんて思ってないよ」


え?どういうこと?

じゃあ…なんで…?


「もちろん、最初は私の方に振り向いて欲しくて…あの…胸とか…意識してもらえたらとか、ちょっと頑張ってみたんだけど…」


うん。やっぱり多少は無理してたんだ…


「でも、話してると、やっぱり私じゃ無理だな、って分かって…。でも…踏ん切りがつかなくて…。だから、私…諦めるために…どうしても、最後の思い出が…欲しかったの…」

「え?」

「あなたに嫌われることになっても…少しの間だけでもいい…一日だけでもいいから、蒼介くんの…彼女になりたかったの…」


これは…


なるほど、そういうことですか…


これで昨日の相田さんの行動が、あの時言った言葉が、全部腑に落ちたよ


でも、でも…それは…悲しすぎるよ…


「だから、「どんなことがあっても、私のこと嫌いにならないで」なんだね…」

「本当に…ごめんなさい…」


相田さんは、ずっと泣くのを我慢してる。

たぶん、ここで泣くのはずるいと思ってるのかもしれない。そんな気がする


本当に…いい子なのに…なんでそこまで…


「相田さん、ごめんね」

「え?」

「あの時の約束、守ってあげられなくて」

「…うぅ…」


我慢しきれなくなったんだろう

頬に涙が流れる


「でもね、昨日の約束は守るから」

「え…」

「相田さんのこと、嫌いになんてならないよ。ううん、なれないよ」

「そ…蒼介くん…」

「俺、本当にずるいね…ごめん…」

「う…ぐす…ぅう…」


相田さんは首を横に振りながら、口元を押さえ、声に出して泣くのを堪えてる


ごめんね


俺がもっとよく考えて行動してれば、こんなふうに…みんなが辛い思いなんてしなくてよかったんだ


「もし…相田さんがよければ、クラスメイトとして、これまで通りに接してもらえないかな…」


ずっと口元は押さえたままだったけど、今度は首を縦に振ってくれた相田さんに、俺も頭を下げて謝った



「俺も…本当にごめん…」





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