第42話 ケチ


「ほら、こっち♡」

「う、うん…」


家に帰った俺達は、ずぶ濡れで少し冷えていたこともあって、お風呂に入ることに。


「うふふ…」

「ちょ…」


シャワーで泥を洗い流し、二人で湯船に


いつものように、俺を後ろからむぎゅっと抱きしめながら、静琉はご満悦だった。

いや、「いつものように」とか言っても、そんなに何回も一緒に入ったわけではない…

…と思う…


「あったかいね」

「うん、そうだね」


はぁ~、なんか落ち着くなぁ、なんて思っていると、


「ねえ…」


あ…この声のトーンは…


「…うん…なんだろ…」

「その、例の画像見せたのって、どっち?」

「え?どっち、って?」

「黒髪ロングか茶髪ボブか、どっちかでしょ?分かってるんだから」


さすが…察しがいいな…


ここで変に隠し事するのもどうかと思うし、俺は事の成り行きを全部話した


「は!?なによ、それ!!」

「え…?」

「キスしたの!?」

「いや、だから…それは…」

「舌入れたの!?」


そういう問題じゃないと思う…


「ごめん…」

「え!…入れた…の…?」

「いや!入れてないって!!」


妙な誤解されてそうなので、少し強めに否定しておく


「でも、キスはしたんだ…」

「はい…」


本当…ごめん……


申し訳なさ過ぎて、たぶん俺がしょんぼりしてると、静琉は後ろから腕を伸ばし、俺の顔を自分の方へと向けさせ、


「んぅ…」

「ん!…んん…」


彼女の唇は柔らかく、また、その舌は俺を求めるように絡みついてくる


(あ…甘い…気持ちいい…好き…)


今日、いろんな事が起きて混乱して、たぶん疲れ切ってた俺は、静琉のその愛情を感じることがとてつもなく心地よく、お風呂で温まってることもあって、本当に蕩けそうになってしまう


少し惚けていた俺は、スっと唇を離されると名残惜しくなってしまった


「あ…」

「ん?蒼くん?どうしたの?」


少し悪戯っぽく静琉が聞いてくる


「…いや、なんでもないよ」

「ふふ…そんな顔して言っても、全然説得力ないんだから」

「そんなことないもん」

「そう?」

「…そうだよ」

「でもね…やっぱり許せない…」


そう言って表情を曇らせる静琉。

そりゃそうだろう。俺がその立場でも、同じように複雑な気持ちになると思う


「うん、そうだよね。ごめん…」

「うん…」


不意に、静琉の頬を涙が伝う


「あ…」

「そ、蒼くん…私…」

「うん、うん…ごめんね…」

「私…辛かった…」

「そうだよね…」

「急にLineで別れようって。連絡も取れなくなるし、辛かったよぉ…」

「うん、ごめんね」


そうだよな。俺も辛かったけど、静琉だって辛かったんだ。

俺はあの場に美桜ちゃんがいたから、そこにその辛さを埋めることが出来たけど、静琉には誰もいなかったんだ


静琉は、一人でその辛さと戦って、それでも俺を追いかけてくれて、その上、自分の辛さを押し殺して、俺に優しくしてくれてたんだ


そう思ったら、その彼女の健気さと愛情の深さに、俺はどうしようもないほど静琉を愛おしく感じ、ギュッと抱きしめる


「え…蒼くん…?」

「本当に…俺はバカだったよ…」

「蒼くん…」

「静琉…今度の週末、買いに行こ?」

「え?何を?」

「うん…その…」


前に静琉が言ってたもんな


「その…ペアリング…」

「え!?結婚してくれるの!?」


いや、そうじゃないよね…


「いや…それはまだ気が早いというか…」

「はぁ…緋村静琉になるのね…」


だから、気が早すぎるよね…


「俺、まだ高一だから…」

「私ね、そういうのに年齢なんて関係ないと思うの」


でも法律で決まってるから…


「そりゃ、いつかは…あの…できればいいなって思うけど…」

「明日、学校休んで市役所行こ?」

「だから、まだ無理なんだって!」

「うぅ…ケチ…」


くっ…!


ケチとかそういう話じゃないんだけど、頬を膨らませて拗ねる静琉は、可愛いが過ぎる





こうして、一日のいろんな疲れやもやもやを二人して吹き飛ばし、俺は幸せな気持ちで眠りに着こうとしたんだけど、ベッドに入ると、やっぱり美桜ちゃん…相田さんの事を考えてしまう。


明日、ちゃんと話さないとな





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