第35話 見ちゃった


帰りのホームルームは例の如く、文化祭の話をしてほどなく解散となった。


なんか今日は疲れたし、さっさと帰ろうと思って鞄に手をかけようとすると、


「あの…緋村くん…」

「え?」


顔を上げると、相田さんが机の前に立ってこちらを見つめている。

そうか、そうだったな。

でも、いちお、あの手紙の差出人が誰かは、まだちゃんと分かっているわけじゃない。


「相田さん。どうかした?」

「え?」

「もう帰り?役員の仕事はないの?」

「うん…。今日はもう終わりで…」

「そう…」


なんか、俺から「あの手紙って相田さん?」なんて言えないよな…


相田さんは俯いてもじもじしてるし、隣で帰ろうとしてた仁科さんは、動きを止めてジト目でこっち見てるし。

なんなんだよ…どうしろっていうんだよ…


「じゃあ、用がないなら、俺かえ…」

「あるもん!」


俺が言おうとした言葉に、食い気味に被せてきた相田さんは、顔を上げて、ちょっと泣きそうな感じになっていた


いや、なんかいじめたみたいになってない?


「えっと…どうしたの?」

「あの…読んでくれた?」

「え…」

「手紙…読んでもらえた?」

「あ…うん…。あの手紙、相田さんだったんだね」

「うん…そう…」

「うん…」

「うん…」


俺、今、青春してるな、とか思ったり思わなかったりしつつ、この後どうすればいいか、思考を巡らせる


うん。こんな経験ないから、考えるだけ意味なかったな


とりあえず、俺は「ここじゃなんだから」と言って、彼女を教室から連れ出す。そして、

なぜか一緒に着いてこようとしてた仁科さんはもちろん止めた。


「いや、仁科さん、ダメだよ」

「どうして?」

「相田さんと話があるから」

「なんの?」

「それは聞いてみないと分からないけど…」

「相田さん。緋村くんになんの話なの?」


こらこら、それは駄目でしょ


俺が仁科さんを帰らそうと声を上げようとした時、スンと表情を消した相田さんが言う


「仁科さんには関係ないよ」

「…え?…相田さん?」

「私、緋村くんに話があるんだから、仁科さんは遠慮してもらっていいかな」


いつものキリッとした相田さんだけど、怖い



というか、なんでこんなことになった?

俺が、俺がはっきりさせないから悪いのか?

いや、はっきりと「彼女がいる」って言ってるじゃないか


ちょっとイラついてしまい、俺は口が勝手に動いた


「二人とも、ちょっといい?」


「「え?」」


「俺には、彼女がいるんだよ。俺は、その人のことが、本当に好きなんだ。だから、彼女を傷つけたり悲しませるようなことはしたくない。もちろん、裏切るようなこともね」


二人とも、少し驚いたみたいだけど、静かに俺の話を聞いてくれている


「だから、それを分かってもらった上で、話してもらってもいいかな。もし、それを蔑ろにされて二人で揉めるようなら、俺のいない所で勝手にやってもらえない?」


「「はい…」」


これ以上変なことに巻き込まれたくなかったし、静琉との時間を邪魔されたくなかった俺は、たぶんけっこうキツめに言ったと思う。


そう思うんだけど、二人とも、なんとなく目がトロンとして潤んでる気がする。


でもさすがに、ここまで言えばもう二番目とそんな話にはならないだろう



「それで、相田さん?話ってなんだろう。それとも、もういいかな?」

「…え?…ううん…いちお、聞いてもらいたい…です…」


そうなんだ…

もしかしたら、全然違う話なのでは…?

え?…やば…俺の勘違い?…恥ずかしいな…


「じゃあ行こうか」と俺は相田さんと歩き出し、仁科さんはその俺達の後ろ姿を見送り、帰って行った





┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄


昼休みに仁科さんと一緒に来た屋上に、今、俺は相田さんと一緒にやって来た。


「じゃあ、相田さん。話って?」

「うん…」


少し俯く相田さん。いつものようにもじもじするのかと思ってたら、その目は少し暗く、そしてどこか悪戯っ子のような眼差しで俺を見ている


そんな彼女の反応が予想外だった。そして、少し動揺する俺を尻目に、彼女は口を開いた


「私…見ちゃった…」

「え?なにを?」

「うふふ…」


なんかみんなその笑い方だな…


「見た、って、なにを?」

「女の人と一緒におうちに入って行って、朝、その人が出て行くところ。あの人が彼女さんなんだよね?」

「え…!?」

「ふふ…お泊まりなんだ…うふふ…」




こ…これは……





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る