第33話 屋上で
そしてあっという間に昼休み。
こんな時に限って、時間が経つのが早く感じるのはなぜなのか
なんとなく視線を感じたのでそちらに向くと、隣の仁科さんがちょっともじもじしてる
「じゃあ、緋村くん…行こっか…」
え?なんで恥ずかしそうにしてんの?
あの朝のやり取りはなんだったの?
うん。乙女心は本当に分からない
とりあえず、俺は購買でパンでも買おうと思って歩き出す。そして、仁科さんはお弁当を持って俺の横を、すぐ真横を歩く。
ちょ…近くないですか…
「ちょっと…仁科さん?」
「え…どうかした?」
「あの…近くない?」
「大丈夫だよ」
なにが大丈夫なのかは分からないけど、彼女がそう言うなら、そうなんだろう
「買ってくるから待ってて」と言って、俺はミックスサンドとあんマーガリンコッペ、いつものカフェオレを買って彼女の元へ戻る。
「緋村くん、甘いもの好きなの?」
「ん~…どうだろう。好きなのかな?」
「なんか意外。でも…」
「ん?」
「…可愛い……」
くっ!
少し頬を赤くして恥ずかしそうに、嬉しそうにそう言う彼女。
朝、虚ろな目で「あざと過ぎない?」と言った女の子と同じ子だとは到底思えない。
女子って…怖いな…
俺はなんとなくそんなことを思いながら、彼女と一緒に屋上へ向かう。
うちの高校は屋上が解放されていて、昼休みや放課後は結構な数の生徒で賑わっている。
ずっと一人だった俺には無縁の場所だったんだけど、仁科さんの希望でお昼を屋上で過ごすことになったのだ
「屋上、気持ちいいね」
「うん。俺、初めて来たけど、気持ちいい」
「あ!あそこ、空いてるから座ろ?」
「え、ああ…うん」
四人がけくらいのベンチの一つが空いていたので、俺達はそこに座る。
すると、スマホが震える
静琉からのLineだった
『今日も購買でパン?たまにはお弁当作ってあげよっか?うふふ♡』
はぁ
静琉らしいな
俺が一人で少しほっこりしていると、
「Line?彼女さんから?」
「え?ああ…うん、そう…」
「いいな…」
「え?」
「いいよね。彼女なら、そうやって緋村くんのこと、独り占めできるんだもんね」
少し寂しそうにそう言って微笑む彼女。
その表情は、あの時、駅で別れ際に俺に見せた顔と同じだった。
俺はなんとなくいたたまれなくなってしまい、話を切り出す。
「あの…話があったんだよね…?」
「え?…うん…」
仁科さんは俯いて、そのまましばらく口を開けなかった。
このシチュエーションでの緊張なのか、無性に喉が乾いた俺は、カフェオレのペットボトルの蓋に手をかけ、少し力を込めて開けようとしたその時、俺の手は、ふわっと暖かいものに包まれた。
「え?」
「緋村くん…」
それは仁科さんの手で、彼女はそのままキュッと、優しく両手で包み込む
「ちょ、ちょっと、え?え?」
「緋村くん…ごめんね…」
「え?なにが?え?どうしたの?」
「やっぱり…私…無理なの…」
「え?え?なにが?」
「我慢できないの…」
「え?…なにを…?」
なに?どういうこと?
まさか…そんなわけないよね…?…ね?
「次の人なんて…見つけられない…」
「そんな…」
そんな…そんなの…困るよ…
「ね…緋村くん…助けて…?…」
俺が助けて欲しい…
でも、そんな現実逃避してる場合でもないな
「仁科さん…ごめん」
「緋村くん…」
「俺には彼女が…いるから…」
「うん…それでもいいの…」
え?
「いや、俺、別れるつもりなんかないよ」
「うん…それも分かってる…」
え?どういうつもり?
「じゃあ…どうしろって言うの?」
ずっと俯いてた仁科さんは、ようやく顔を上げ、その潤んだ瞳で俺を見つめながら言った
「私…二番目の彼女でもいいから…」
え…ちょっと待って……
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