第32話 恋は…?


いろいろと分かった。


おそらく、たぶん、間違いなく、あの手紙の差出人は相田さんだと思う。

そして、俺が思っていた以上に、相田さんはポンコツだということも。


おかしいな。彼女はもっと、なんというか、キリッとして、凛とした佇まいだったはずなんだけど、どう見ても今はへっぽこだ。


「これ…どうかな…?」


少し恥ずかしそうに、後ろで結んだポニーテールを触りながら俺に聞いてきたけど、トータル的に見て、めちゃくちゃ可愛い。


その髪型はもちろん、うつむき加減で、そこから上目遣いでこちらを伺うように俺の顔を覗き込んでくる様は、うん、なんていうか、やばいです


すると横から、ボソッと仁科さんが呟く


「あざと過ぎない?」


こわっ!


「ひぃ!」と声を出さなかった自分を褒めてあげたい



「に、仁科さん…そこまで言わなくても…」

「え?緋村くんはそういうのが好みなの?」

「いや…そうじゃなくてさ…」

「ふーん。そうなんだ…へー」


なんか仁科さん、ちょっと静琉に似てるな…


「で…どうかな…」


あ…まだ聞いてくるんですね

相田さん…案外たくましいですね…


「うん…似合ってるんじゃないかな…」


やばい…これは恥ずかしいぞ…

ほら、いつもと違う感じの相田さんにみんな興味津々なのに、それに加えてその仕草。

みんなこっち見てるじゃん…


「ありがと…。じゃあ…また後でね…」


たぶん、今、相田さんは自分がこの教室の中で、めちゃくちゃ目立ってるということに気付いてないと思う。

だって嬉しそうに、それこそ「ルンルン♪」という効果音が鳴りそうな勢いで、自分の席に戻って行ったもんな。

もしかして、これが「恋は盲目」ってやつ?

ごめん、たぶん違う


いや、なに考えてんだ、恋は、とか。それこそ自意識過剰ってもんだろ


すると、また横から「ねえ」と、今度は静琉ばりの暗い声で、仁科さんに声をかけられる


「え…っと…なにかな…?」

「どういうこと?」

「え?…なにが?」

「さっきの「また後で」って、なに?」

「さぁ~…なんだろうね…」


本当に、静琉に尋問されてる感覚になる…



そうだ

俺には静琉がいる。年上なのにあんなに可愛くて、俺のことを心の底から想ってくれてる人がいるんだ。

ここでふらふらと、あっちこっちに移り気してる場合じゃない

それこそ、本当に浮気だろ


うん、大丈夫。ちょっと持ち直したぞ


「ねえ」

「え、なに?そろそろ朝のホームルームはじまるよ?」

「うん、分かってる」

「うん…」

「今日、帰りのホームルームのあと、時間取れない?」

「え?」


いや、先約が…


「やっぱり、私、無理」

「え?なにが?」

「時間取れる?」

「いや、今日はちょっと用事があって…」

「じゃあ、お昼休みは?」


その目には、「いつも一人で食べてるんだから、用事なんかないよね?」というのが見て取れる


「昼休みは購買行こうかな、って思ってて…そのあと…えっと…ちょっと考え事があるかもって…だからその…」


なに言ってんだ、俺は…


「なに?どういうこと?よく分かんないけど、私とお昼一緒なのは嫌だってこと?」

「いやいや、そうじゃなくて!」

「じゃあ、いいよね?」

「…はい」



え…仁科さん…?

あの駅で別れる前、「いつも通りに私とお話してくれる?」とか、可愛らしく言ってなかったっけ?


あの人と、同じ人…ですよね…?





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