第31話 手紙


「じゃあ、行ってくるね」

「うん。行ってらっしゃい」

「ふふ…なんか本当に夫婦みたい」

「へ!?あ…うん、そうだね…」

「蒼くんも気をつけてね」

「うん、ありがとう」



翌、月曜日の朝。

静琉は前の時と同じように、自分の部屋に戻ってから大学に行くため、早めに俺の家を出て行った


そのあと、俺もさっさと用意を終わらせて、学校に向かうことに



もう好奇の目で見られるようなことはなく、普通に登校出来るようになっていた。


人の噂もなんとやら、かな


はじめに思っていたよりも、早く収まったんじゃないかと思う。

それでも、たまに女子生徒にチラチラと見られることはあって、まあそれはもう仕方ないなと思って諦めてる。


諦めてはいるんだけど、やっぱりなんとなく恥ずかしくて、最近はうつむき加減で歩いてしまい、俺はそのまま校門をくぐって昇降口に着き、下駄箱を開ける。


うん。開けたんだけど…


上履きの上に置かれた、可愛らしく綺麗な封筒に、俺は即座に固まってしまった


(これは…ラブレターというやつでは…?)




少し周囲を見渡し、サッと鞄の中に潜ませ、教室に向かう前にトイレへと足を運ぶ


こんなの、今までの人生で初めてだから、緊張と期待で胸がいっぱいになってしまったけど、少し冷静になってみると、そんな感情を抱いた自分に罪悪感が湧いた


だって、俺には彼女が、静琉がいる


昨日だって結局イチャイチャしたじゃないか


いや、それは今は置いといて…



色々と恥ずかしくなってしまったけど、鞄の中から封筒を取り出してみる。

外の封筒には「緋村くんへ」とだけ書かれていて、差出人の名前はなかった。


少し時間も経ち、落ち着いてきて思ったけど、これは必ずしもラブレターではないかもしれない。

単なるイタズラかもしれないし、もしかしたら、不良生徒なんかの呼び出しだったりするかもしれない。

そう思ったら中身を確認するのが怖くなった


うん。でも、宛名は明らかに女の子の字だ


俺は恐る恐る中の便箋を取り出す。

あまりもたもたしてると、教室に行くのも遅くなって遅刻になってしまう


『緋村くんへ

彼女がいるのは知ってます。でも、どうし

ても伝えたい事があるので、ホームルーム

の後、話を聞いてくれませんか?

お願いします』



うん。名前はないけどそれっぽいです。

あと、少し気になったのは、「放課後」ではなく「ホームルーム」と書いているところ。

これは同じクラス、ということだろう


でも、まだイタズラや呼び出しの可能性はあるわけだから、浮かれるわけにはいかない。


ん?

浮かれる?

浮かれたらダメだろ…




┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄


ギリギリではなかったけど、なんとか遅刻になるような時間になる前に教室に着き、俺が席に向かうと、チラッと隣の仁科さんと目が合う


「おはよう」

「あ、うん…おはよう…」


気まずい…


でも、あの手紙はこの前すでに俺に好意を伝えてくれてる仁科さんではないはず。

現に今、仁科さんは普段通りに俺に挨拶してくれて、いたって普通だ。

それもどうなんだと思わなくもないけど、そこが男女の差なのかもしれない。


「どうかした?」


考え込んでた俺を察したのか、仁科さんが顔を覗き込んできた


「え?いや、なんでもないよ…」

「そう?なんか隠し事っぽいなぁ」

「へ!?…いや、そんなのないよ…」

「あからさまに動揺してるけどね」


彼女はジト目で俺を見ている。

やばい…普通に可愛い…



ああもう!!

あんなこと言われた子に普通に接するのなんて、ぼっちの俺には無理だよ!


頭をワシャワシャしたくなったのを必死に我慢して、俺は何食わぬ顔で席に着く



すると「タタタタッ…」っという、少し駆け足気味な音が近付いているのに気付き、その音がする方へ視線を送る


見覚えのある艶のある黒髪を、今日はいつもとは違ってポニーテールにしている相田さんだった


「あ…あの…」

「え…あ、うん、おはよう…」

「うん…おはよう…」

「えっと…相田さん。どうしたの?」

「へ?…だって、男子はポニーテールが好きだから、勝負かけるならやっていきなよ、ってお姉ちゃんに言われたから…」




うん


相田さん。いろいろと分かったよ





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