第2話 速水さん
その夜、速水さんからLineが来た
明日の待ち合わせの場所や時間を確認し合ってから、最後に「おやすみなさい」と送って少し眠くなった俺はベッドに横になる
横になったけど、少し考えたら目が覚めた
これって、もしかしてデートなのでは?
いやいや、ないでしょ
考えすぎだよな、うん。そんなわけない
あんな綺麗で可愛くて、年上の大学生のお姉さんが、メガネぼっちの俺とデートなんかするわけないじゃんね
たぶんぼっちの俺のことを心配してくれて、友達が出来るように、って思ってくれての事だよな
速水さん、優しいなぁ
こうして考えのまとまった俺は、安心して眠りについた
┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄
「おはよう、緋村くん」
「お、おはよう…ございます?…」
待ち合わせの駅前で俺は少しビビる
これまでバイト先で何回かチラッと速水さんの私服姿は見たことがあった。
だいたいTシャツにジーンズとか、パーカーにパンツとか、ラフな感じのイメージだったのだが、ふわっとしたブラウスに膝丈スカートと、これまで見たことのない装いだった
「どうしたの?ん?」
少し悪戯っぽく俺の顔を覗き込むが、あの、
その…ちょっとピンクの紐が…見えて…ます
9月になったばかりでまだ残暑は厳しく、俺も半袖のパーカーにアンクルパンツと夏仕様なのだけど、彼女が少し屈んで胸元がぽよんてして…
速水さんは俺の視線に当然のように気付いて
「ふふ~ん?見えた?」
とニヤリと聞いてくる
え、あの、どうしたらいいっすか……
たぶんはたから見たらあわあわとなっていたであろう俺。そんな俺にさらに、
「緋村くんなら、いいよ?」
は!?なに?どういうこと?
「うふふ…」と微笑む速水さんの目が少し虚ろな感じがするけど、気のせいだろうか
「と、とりあえず、コンタクトでしたね」
「え…うん、そうね」
「でも、やっぱりまだ作る気があまり…」
「どうして?メガネ好きなの?」
「いえ、そういうわけじゃ。なんか手入れが面倒そうだし、お金もかかりそうだし」
「ああ、ご両親、長期で留守なんだよね」
「え…知ってたんですか?」
「たまにコンビニで夜ご飯買ってるよね」
え…?
なんで知ってんの?
俺の気持ちを察してか、速水さんは言う
「え?知ってるよ。だっていつも見てるし」
……え?
何言ってんの?
「あの日から君のこと、ずっと見てるよ」
「あの日、って?」
「まあ、それは今はいいじゃない。とりあえずさ、どっか行こ?」
そう言って俺の手を取る速水さん
いや、今までの人生で女の人と手を繋いだのなんて、まだ小さかった頃に遠足でクラスの女の子と手を繋いで以来だ。
普通にドキドキする……
「あ…あの、速水さん…」
「ん?どうかした?」
「その…手……」
「ああ、分かったわ」
また「うふふ」と微笑むと、彼女は手を離して「えい!」と俺の腕を掴んで
「え?ちょ…速水さん!?」
「私もこっちの方がいいな」
「ふにゅ」と、彼女の柔らかい何か、いや、それが何かはもちろん分かってる。速水さんの胸が俺の左腕を柔らかく優しく包み込む。
え?なんで?なんで?
「いえ、そういう話じゃなくてですね…」
狼狽える俺を尻目に、彼女はスっと俺のメガネに手を伸ばし、そっと外した
「え!いきなりなんですか!」
「ああ…やっぱりその目…」
「え…俺の目…?」
トロンと蕩けた表情で俺の顔を見つめている
あの…流石にそういうのに疎い俺でも分かりますよ。速水さん、俺のこと…?
でもなんで?
大学生でこんな可愛いのに彼氏いるでしょ?
「速水さん…あの……」
「…うん。やっぱりコンタクトはもういい」
「え?いいんですか?」
「私の前でだけ外してくれるならそれで」
「はあ…そうですか」
「その切れ長で視力が悪くて少し目を細めて見ようとするとまたその切れ長な目が強調されてかっこいいし別に目つきが悪いとかそんなんじゃなくて言いたい人には勝手に言わせておけばいいと思うし私は好きだしその瞳に私は射抜かれたわけだし普段そのメガネと前髪で隠れたあなたのそんな表情にクラクラしちゃうしもうそんなあなたを誰にも見せたくないし誰にも渡したくないし渡さない。だからもうメガネのままでいかなって思ったしそのギャップもまたいいよねって思ったしああもう駄目無理…ふふふ……」
…え?
早口で何言ってるかよく分かんなかったけど、間違いなくなんかヤバい気がした
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