第3話 初めての


「とりあえず、カフェでも行こうか」


と、ようやく普通のテンションになってくれた速水さんと一緒に目に付いたカフェへ。

もちろん腕は組んだまま


普通に恥ずかしいんだけど…



席に座ろうと椅子に手をかけると当たり前のように隣の席に座ろうとする速水さん。


「あの…速水さん?」

「どうしたの?」

「その…向かいじゃなくて…?」

「え?」

「…隣…です?」

「嫌なの?」


ジト目の彼女は少し怖かったけど、俺は「美人のジト目っていいな」なんて思う自分を殴りたくなった


「いえ…大丈夫です」




それから普通にバイトの話や学校での話をしながら時間は過ぎていった。


隣で嬉しそうな笑顔の速水さんは控えめに言って可愛い。無理だろこんなの

何が無理かは分からないけどそう思った



店を出たあとは一緒に街をブラブラと散策したんだけど、これ、デートだよね?

普通にデートだよね?初なんだけど?



日が暮れかかりいい時間になった頃、俺は意を決して速水さんに言う


「今日はありがとうございました。こういうの初めてで楽しかったです」

「え?初めて…?緋村くんの初めて……」


なんかブツブツ言い始めたけどスルーだ


「あの…今日のこれって、デート…でいいんですよね?」

「うん。そのつもりだよ」

「俺なんかと…その…いいんですか?」

「どういうこと?」

「彼氏さんに怒られませんか?」

「は?」


軽く睨む感じで俺の事を見据える速水さん

え?こわっ…


「いえ、あの…速水さん…その…綺麗だし、あの、可愛いし…」

「やだ…照れる…」

「普通に彼氏さんいるんじゃないかって…」

「いないよ」

「え?そうなんですか?」

「なって欲しい人はいるけどね?」

「…え……」


「もう…」と少し頬を膨らませて、俺の腕を今日一番くらいに強く抱きしめ、


「…分かるでしょ?」


彼女は頬を染めて上目遣いで見つめてくる



あ、やっぱりそうなんですね…

そういう認識で間違ってないんですね…


「…俺でいいんですか?」

「緋村くん…」

「俺、まだ高一ですよ?いいんですか?」

「…うん」

「あの…本当に?」

「緋村くんがいいの」


潤んだ瞳で、そんなねだるようにように見られたら無理っすよ。いや、いいんだけど


「じゃ、じゃあ…よろしくお願いします?」


速水さんはパァっと表情を明るくさせて、嬉しそうな満面の笑みで


「好き!」


と言って抱きついてきた




こうして、俺にとって人生初の彼女ができた事になるんだけど、


「じゃあ帰ろ?」

「え?どこに?」

「どこって、緋村くんちだよ?」

「え?」

「え?」

「え?」

「…なに?ダメなの?まさか…」

「え?いや、ダメとかじゃなくて、なんで俺んちなんです?」

「…まさか…女がいるんじゃ……」


話聞いてよ…


「いないですって!そうじゃなくて、なんで俺んちに帰るって話なんですか!」

「大丈夫。ちゃんと場所は知ってるから」


え…?

いや…そういう話じゃないですよね…?


「えっと…なんでうちの場所を…?」

「うふふ…」


あ、この人、笑って誤魔化したな


「彼女と彼氏の関係になったんだから、当然よね?」


俺から教えたわけじゃないですよね?


と言いたかったけど、そのまま言うのは危ないと俺は身の危険を感じた


「はい…さっき、なりましたね」

「そう。ああ…これで私のもの…」


今日一日でこれまで俺が抱いていた速水さんに対するイメージは完全に崩壊した


「だ・か・ら、ね?」


うん。でもヤバいくらい可愛い

そして大人の魅力全開なんですけど


「これはこれでいいな」と、普通の思春期男子として色々と想像してしまうのは許して欲しい。仕方ないでしょ。柔らかかったし


「じゃあ、行きましょ?」


と、俺の手を引いて歩きだした彼女にされるがまま、俺は彼女と並んで歩いていく



こういうの初めてで、少し恥ずかしい。

でも、隣を歩く彼女の嬉しそうな横顔を見ていると、俺もドキドキして、やっぱり嬉しくなったのだった





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る