8 セラフィムの発言に驚くアーデルハイト
もしかして病気にでもなってしまったのかと慌てましたが、落ち着いて息を整えると治まったので、恐らく気のせいだったのでしょう。
セラフィム王太子殿下の「愛に生きる宣言」を陛下から聞かされてから、ほどなくしてセラフィム王太子殿下が控え室へとやって来ました。
本来ならば別室へと通されるのですが、セラフィム王太子殿下が歓迎会の前に話したいことがあるとのことで、急遽こちらへと通されたのです。
「アーデルハイト王太子殿下、とても、キレイだ……」
「ありがとうございます、セラフィム王太子殿下」
「…………。ハッ!?そうでした、惚けている場合ではなかった。その、マヌエラ殿の助力のおかげで、祖国のテルネイ王国と連絡が取れるようになったのだが、父上、いや、テルネイ王国国王陛下から、私に全権を委任すると連絡がありました」
「全権を……っ!?」
「セラフィム王太子殿下、何があったのだ?全権を委任するなど、余程のことがなければ有り得ぬだろう?まさか、お父君に何かあったのか?」
「いえ、何も……と言いますか、その……」
「さすがに、国の事情であろうから、我々には言えぬか?」
「…………いえ。簡潔に、正直に申し上げますと、父上は、もう嫌になったんだと思います」
「……はい?」
「嫌……とは、どういうことかね?」
セラフィム王太子殿下がおっしゃるには、テルネイ王国の国王陛下は、証持ちがなかなか生まれないことから、過激派からかなりの圧力をかけられていたのだとか。
正妃様も側室も、その圧力に晒され、心を病んでしまわれた方もおられたそうです。
過激派が幅を利かせ、どちらが王なのか分からないような状況になっていたけれど、過激派は祖国奪還を掲げているだけで、国のことも民のことも何も考えていないので、これ以上彼らの好きにはさせたくないと、テルネイ王国国王陛下は王太子であるセラフィム王太子殿下に全権を委任し、テルネイ王国をわたくしが建国した国へと吸収するように動けと指示を出したとのこと。
「過激派に国をいいようにされるくらいなら、こちらに吸収された方がいい、と。それで、その全権を委任するための書類と印璽を、来訪されていた教皇様に、こちらへと届けてくれるように頼んだらしいのです」
「教皇様に!?教皇様に、印璽とはいえ荷物の運搬を頼んだのですか!?」
「はい……。にわかには信じられない話なのですが、手紙の文字は父上のもので間違いなさそうですし……」
「教皇様は、テルネイ王国との行き来もあったのだな……。しかし、政治的に中立のお立場であるはずなのに、それなのに、印璽と書類の運搬を……?」
教皇様はテルネイ王国へも行っておられたのですね。
全ての国を回られるとのことでしたから、当然のことなのでしょうが、アイゼン王国は、何と狭い世界で生活しているのでしょうね。他国のことなど、ヴィヨン帝国を通してしか知らないのですもの。
これは、国を新たにしたら、他国との関わりも持っていかなければならないわね。
テルネイ王国国王陛下が吸収されることを望んでおられるのだとしても、簡単に終われる話ではございませんので、アイゼン王国国王陛下も交えての懇談も必要ではないかしら。
ああ……、でも、セラフィム王太子殿下に全権を委任したということは、セラフィム王太子殿下に任せた、ということなのよね。
あら?つまり、セラフィム王太子殿下を王配として、二人で国を作っていけ、と?そういうことですの?
そう思い当たり、ちらりとセラフィム王太子殿下に目を向けると、ほんのり顔を赤くしてモジモジし始めてしまいました。
……御手洗かしら?
歓迎会が始まる前に済ませておいた方が良いのではないかと、声をかけようとしたところで、マヌエラが視界に入り、首を小さく横に振っているのが見えました。
どうして、わたくしの考えていることが分かるのか不思議ではありますが、よく考えてみれば、女性から御手洗に行くことを勧めるのは、あまりよろしくはありませんわね。うっかりしておりましたわ。
モジモジしておられたセラフィム王太子殿下は、グッと拳を握ると、わたくしの前で片膝をつき、真剣な表情で見上げてきました。
「アーデルハイト王太子殿下」
「……?はい、何でしょうか」
「急にこのようなことを言われても、困ってしまわれるかもしれませんが、私と共に未来を歩んでほしい。父であるテルネイ王国国王陛下が望んだからではなく、私自身があなたと一緒になりたいのです。……おし、お慕いしております。アーデルハイト王太子殿下に振り向いてもらえるよう、努力します。だから、この手を取ってほしい」
「えっ、ええ?えっと、保留とかは……、あ、ないのですね、はい。えぇっと、そう……ですわね」
国内にめぼしい婚約相手もいないということですし、かと言って帝国からは遠慮したいですからね。
それに……打算もあります。
セラフィム王太子殿下との間に子供を授かったら、セラ様が降りて来てくださらないかと、ありもしない期待を抱いてしまうのです。
そんなことで婚約を決めてしまうのは、いけないのでしょうけれど、わたくしは、セラ様に
少しの間を固唾を呑んで待っていたセラフィム王太子殿下に、わたくしは、正直に申し上げることにしました。
「セラフィム王太子殿下と、結婚して、子を授かったら……」
「こ、子供っ……」
「あの、きちんと聞いてくださいませ」
「ハッ……、ごめん!」
「あなたとの間に子ができたら、そうしたら、その子がセラ様だったりしないかと、ありもしない期待をしているのです。それでも、そんなわたくしでも、あなたは、共に歩んでいきたいと、そう
「もちろんだ。その打算で頷いてくれるなら、それでも構わない。姉上に会えるまで頑張っ……いたっ!!痛いぞ、ドナート!!求婚している最中に何をするんだ!?」
「えっと……、陛下、ドナート殿に発言の許可をお願いいたしますわ」
「う、うむ。ドナートよ、発言を許可する」
「ありがとう存じます、国王陛下、アーデルハイト王太子殿下。うちの王太子殿下が、本当にっ、本当に申し訳ございません!!」
「ドナート殿、どうされたのですか?もしかして、テルネイ王国側としては、わたくしとの婚姻は、やはり止めておきたいところなのでしょうか?」
「いいえっ!そんなこと、滅相もございません!!そ、その、今のセラフィム王太子殿下の発言にお気付きの点がないようでしたら、それで大丈夫です、はい。御前を失礼いたしました」
何だったのでしょうか?セラフィム王太子殿下の発言に失礼なところはなかったように思うのですけれど……。
ちらりと陛下に視線を向けると、複雑な表情でセラフィム王太子殿下を見ておられました。
……わたくしが気付かなかっただけで、何か失礼にあたるような発言があったのでしょうか?
ドナート殿の言動がよく分かりませんでしたが、わたくしは、セラフィム王太子殿下の求婚を受け入れることにしました。
女王として立つのだから、セラ様にいつまででも縋って、甘ったれたことを言っていてはいけないと思ったのですが、陛下から、「政略としても問題ない、というよりかは、他に候補がいないのだ。何せ国内にめぼしい子息は婚約済みであるし、唯一国交のある帝国とは遠慮したいということだからな」と、苦笑しながら背中を押されたのです。
テルネイ王国と友誼を結ぶための政略結婚ならば、何も証を持つセラフィム王太子殿下でなくとも良いのです。
しかし、セラフィム王太子殿下は、「いやだ。絶対に兄上にも弟にも代わってやらない。初恋は実らないとか、そのようなことは関係ない。実ったことがないなら、私がその最初の一人になってみせよう!」と、譲らないので、苦笑しつつの婚約となりました。
でも、実ったことがないなら、その最初の一人になってみせるという、その自信に溢れた姿に、少しときめいてしまったのは、ナイショです。
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