4 あれこれと忙しいアーデルハイト
みなさん、ごきげんよう。
わたくしは現在、医師の診察を受けております。
何故このようなことになっているのかと申しますと、腹痛を起こしたからですわ。
歓迎会を開くにあたって、アイゼン王国独自のお料理やお飲み物をお出ししようと思っていたのですが、ここが元はテルネイ王国でもあったのであれば、その頃の名残りのような料理などもあるのではないかと、マヌエラに確認してみたところ、伝統料理と言われているうちの何品かが、それに該当するとのこと。
しかし、伝統料理と言えば聞こえは良いものの、歓迎会でお出しするには少々古臭く感じるのではないか、という意見もございまして、手を加えることになりました。
マヌエラとカールが厨房へと、それを依頼し、伝統料理に手が加えられた品をいくつか試食していたところ、突如わたくしは腹痛に襲われまして、医師を呼んでもらうことになってしまったのです。
わたくしとしては、それほど我慢できない痛みでもなかったのですが、汗が少し滲む程度には痛かったので、試食をしていて食べ過ぎたのか、それとも何か体に合わないものがあったのかと、軽く考えておりましたら、何故か毒を盛られたのではないか、という話に発展しておりました。
とにかく寝室へと、レオナに抱えられてベッドに横にされ、手早く夜着に着替えさせられたのですが、この程度でベッドに押し込まれるのが普通なのでしょうか。
未だに痛むお腹に少々慣れた頃、ふと、ある事が過ぎりましたが、医師の診察結果を聞いて、やはりと思いました。
「おめでとうございます、王太子殿下。初花(初潮)にございます」
「ありがとう。やはりそうでしたのね」
「はい。冷えないように、温かくしてお過ごしくださいませ。食事も消化に良いもので、あまり刺激のあるものは、お控えください」
「分かりましたわ」
「それでは、私は、陛下にご報告してまいりますので、御前を失礼いたします」
「ええ、ありがとう」
やはり、初潮でしたわ。
ただ、死ぬ前のときは、12歳頃でしたので、随分と早くに来ましたわね。
厨房へ行っていたマヌエラが慌てて駆けつけ、初潮だと知って、その場に崩れ落ちてしまいました。
どうやら毒を盛られたのかもしれないと聞かされ、急いで来たら、初潮だと知って安堵したようですわ。
ついでだと思い、マヌエラに、死ぬ前のときは12歳頃だったことを話すと、「環境などによって変わることもございましょう」とのことで、どうやら、死ぬ前のときは、わたくしが極度のストレスに晒されていたことから、それが身体の成長を妨げていた可能性があるのではないか、ということでした。
12歳頃に来たとはいえ、来るまでは12歳にもなって、まだ初潮が来ないのは、女性として欠陥があるのではないかと言われましたからね。
しかも、2歳下のロザリンドの方が先に来たものですから、余計に色々と言われましたわ。
本来ならば、初潮が来たことを側近や家族以外に伝えることはしないのですが、わたくしは、王太子という立場上、そういったことはある程度、周囲に知らせる必要がございまして、今回の腹痛騒動も厨房にいる料理長にだけは、真相が伝えられました。
毒を盛られたのではないかと、ちょっとした騒ぎになってしまったこともありますし、仕方がございませんわね。
報告を受けた陛下からお祝いのお言葉と共に、大事をとって10日ほど休むようにと言われてしまったのですが、何も10日も休まなくても大丈夫ですのに。
死ぬ前のときなど、1日たりとも休ませていただけなかったので、何だか変な感じですわね。
しかし、休めと言われましても、歓迎会の準備をしなくてはなりませんので、ベッドの住人になっているわけにもいきません。
刺激のあるものは控えるようにとのことで、料理の試作もそういった食材を抜いて作っていただいたところ、意外にもその方が合っておりまして、上手くいきましたが、料理以外にも様々な物の準備が必要なため、時間はいくらあっても足りません。
アイゼン王国が剥奪者であったとしても、今はこの国を治めているのは、アイゼン王国王家なのです。
テルネイ王国相手に下手に出る必要はないと思うのですが、だからといって、あまり上から目線な態度もよろしくないでしょうと、その辺の加減を上手くやらねばなりません。
それにしても、少し笑ってしまったのですが、ヴィヨン帝国の第三皇子がこちらへ留学して来ないことから、歓迎会を開くことはないと思っておりましたのに、テルネイ王国の王子がやって来て、結局、歓迎会を開くことになりましたわ。
テルネイ王国御一行が滞在されるのは、翡翠宮と呼ばれる迎賓館で、王宮からは離れた位置にございまして、周囲は木に囲まれているのですが、その木々の中に足を踏み入れますと、ガサガサと足音が鳴りますので、警備がしやすいのです。
もちろん木に登ると、枝がしなるので、バサバサと音が鳴るそうですが、そういったものを選んで植えてあるとのこと。
こういった滞在される場所の準備などは、王妃様の職務の範囲なのですが、まだお部屋にこもっておられるそうで、わたくしがしております。
マヌエラから、王妃様は、ロザリンドの持つ魅了の魔眼から受けた影響が最も強く、未だに精神的に不安定な状態にあるため、しばらくはそっとしておいた方が良いと言われました。
陛下の方は、テルネイ王国派の中でも過激派と呼ばれる者たちが、まだそばにいるらしく、お披露目会でわたくしを試すようなことをしたのは、その者たちに唆された可能性があるとのこと。
マヌエラが少しずつ過激派を切り崩していっており、陛下の周囲もあと少しで落ち着くそうです。
それと、これらのことをヴァルター卿もご存知なので、何かあれば相談しても問題ないようになってるのだとか。
……本当に信用して大丈夫かしら。
少し不安になりつつも、忙しい日々を過ごしていると、ヴァルター卿が戻られたと連絡がありました。
わたくしは王太子宮の執務室にいたので、そこへヴァルター卿をお通ししてもらうように言うと、それほど待つこともなく、ヴァルター卿が執務室へと入って来られました。
「おかえりなさい、ヴァルター卿」
「ただいま戻りました」
「どちらへ行っておられたのか、お伺いしても良いかしら?」
「いえ、ちょいと熱烈な歓迎をしに行っておったのですよ」
「まぁ、熱烈な。ふふっ、ヴァルター卿にそのようなお方がおられたのですね」
「そうですな。頼りないようなら、儂が仕込むので問題ございませんぞ!」
「いやだわ、ヴァルター卿ったら」
奥様を亡くされておられるので、問題ないでしょうけれど、このような日の高いうちから仕込む話だなんて。
そう思っておりましたらマヌエラが、「閣下、誤解を招くような発言をされておられますよ」と、ヴァルター卿にそう言ったのですが、ヴァルター卿は何を言われたのか分からないといった顔をされておられました。
ヴァルター卿が戻られたので、歓迎会の準備について確認していただいたのですが、概ね大丈夫そうだとのことで、このまま進めていくことにしました。
こうして準備に追われていた、ある日のこと。
王妃様からお祝いの品が届けられました。
添えられた手紙には、少し震えた文字ではありましたが「愛をこめて」と書いてあり、お祝いの品は香水でした。
柔らかな花の香りに少しだけスパイシーな刺激がのせられた香水で、甘過ぎず、かと言って大人っぽく見えるように背伸びした感じは受けず、今のわたくしに合った香りで、とても気に入りました。
涙を滲ませて手のひらに乗せた香水瓶を撫でていると、マヌエラから声をかけられました。
「ようございましたね、アーデルハイト殿下」
「ええ。お……王妃様のお加減は、良くなられたのかしら?」
「はい。日々良くなられておりますよ」
「そう、良かったわ」
まだ、王妃様のことをお母様と口にすることが出来ないけれど、以前ほど他人だとは思っておりません。
少しずつ、家族として接していければ良いなと思い、ロザリンドとも今回はまともな関係を築けたらと、そう思えるようにもなりました。
そんなことを思っていると、「失礼いたします」とレオナがやって来て、マヌエラに耳打ちをして何かを告げました。
その内容があまり良くなかったのか、ほんの一瞬だけマヌエラが眉を
報告を受けるため、ほんの少しだけ部屋から出ていたマヌエラが険しい表情で戻ってきました。
「あら?どうしたの?」
「アーデルハイト殿下。今、王太子専用馬場へと第二王女殿下が向かってしまったとのことです。このことに調教師のアレクセイも関わっているそうで、恐らく目的は魔獣馬のカローリかと思われます」
「あらまあ。この忙しいときに愚かしいこと。わたくしたちが慌ただしくしているからこそ動いたのでしょうけれど、これではアレクセイを手配したヴァルター卿の顔にも泥を塗る行為だわ」
「どうなさいますか?」
「仕方がございませんわね。馬場へと向かいます。準備をお願い」
「かしこまりました」
歓迎会の準備や公務もあって、わたくし疲れておりましてよ。
でも、いけない子には、お仕置が必要よねぇ?
あはっ。久しぶりにムチをふるいましょうか。
大丈夫だとは思いますが、カローリには誰が
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます