第19話 死んだ

 ビービービービー鳴る音、人の声、騒々しい音で目が覚めた。まだ、4時よ。眠れないので、車いすに乗って廊下に出てみる。

「高木先生呼んでくれる?電話して。」

「はい。」

 看護師が慌ただしく走っていった。

 横山が手すりにつかまって、よたよた歩きながら私の方に向かってくる。

「死んだ、死んだ、死んだんだって。」

 目をかっと見開いて私に向かって叫んだ。

「何が起きてるのよ。」

「人が死んだらしい。さっき、みんな言ってた。」

「えっ?」

 そこに、職員がやってきて、横山をつかんで近くの椅子に座らせた。

「もう、今大変なんだから座ってて。横山さんが部屋から出てくると音がなっちゃううの。」

 職員は横山の部屋にいってセンサーを止めて車いすを持ってきた。辺りはようやく静かになった。

「あと、死んだ死んだ言わないで。変なこと聞いてて、それを覚えてるんだから、いやんなっちゃう。」

「コロナで死んだ。」

「だから、言わない。常盤さんも部屋に帰ってください。」

 職員は怒って言った。

「誰が亡くなったんですか?」

 私が聞くと、

「いや、あんまりこう言うのは言えないんです。」

「一緒の空間にいて、同じ場所でご飯を食べていて、お話をしたかもしれないのに。亡くなったかも知ることができないんですか?」

 私が、強く言うと、職員はちょっと考えて、

「あー、んー、そうね。でも、常盤さんには関係ない人よ。一番最初にコロナになった藤井さん。あの時、誤嚥もしてたから、コロナで亡くなったっていうより誤嚥性肺炎かな。まあ、急に亡くなったって感じだったんですよ。んー、でも血中酸素濃度60%台だったから、救急搬送してもよかったのかもしれないけど。まあ、最後は苦しまないで、スーと行った感じだったみたいですよ。」

 あー、あの人かあ。食べ物をむせ込んで、吸引されて、苦しそうだった人。スーと行ったのね。病院に運ばれて、呼吸器をつけられて生きられたとして、食べ物を詰まらせながら生き続けるのも辛かったね。お腹から栄養を入れていかされるのも辛いわね。服をめくってお腹をみる。栄養を入れていた場所にはガーゼが貼ってある。食べるのが苦しくてしかたがない。お腹から栄養を入れていかされるのも嫌。我儘かしら。スーとスーといきたいのよ。





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