第17話 リハビリ
ナースステーションの前で話を聞いていると、肩をたたかれた。
「リハビリの時間です。」
怖い顔をした男性職員がぶっきらぼうに言った。職員に押されて廊下の手すりがある場所に行く。
「私は、理学療法士の落合です。よろしくお願いします。」
佐々木さんは、身体の痛い場所や困っている事なんかを聞いてきた。その後、身体を動かして、マッサージをした。身体の力が入っていた場所が、すーと楽になって、とても上手な人だった。
「少し、歩いてみましょうか?」
佐々木さんはそう言い、用具室から歩行器を持ってきた。
嫌な時間が来た。歩くと脚が痛いのだ。巻き爪の肉が食い込んで、伸びない膝がぎしぎし痛むんだ。
「いいわ。歩きは。歩けなくたっていいのよ。」
「これだけ、身体機能が残っていたら、歩かないともったいないですよ。」
もったいないねえ、いや、もう十分なのよ。足がなくなって幽霊になったっていいんだから。
目の前に歩行器を持ってこられて、身体を支えられた。落合さんはあまり力を入れていないのに、すっと立ち上がることができた。歩行器をつかんで、1歩足を前に出す。まるで、歩き始めた幼子のようにふらふらふらふら、ようやく歩く。幼子はいくら転んでも大丈夫だけど、私が転んだら西城さんみたいに骨折ね。ふふふ、もう可笑しくなっちゃう。年をとるとね、1歩進んで2歩下がるくらいなら、全然いいのよ。頑張って1歩進んでも、3歩も4歩もどんどん後ろに下がっていくのよ。何もしなければ、さらにもっともっと下がっていく。いくら努力してもね、西城さんみたいに転んだだけで、何十歩って下がっていくことだってある。年をとって生きるって残酷なのよ。
廊下を半分まで進んだところで息が切れてきた。廊下に置いてある椅子に座らせてもらう。
「今日は、これでおしまいにしましょう。」
落合さんはそう言うと、車いすを取りにいった。あー、これだけ歩くのに容易じゃないわ。
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