第15話 骨折

 西城さんは、食席には戻ってこなかった。ベッドで寝たきりらしい。職員が何人か西城さんの部屋に出入りして、「骨折してるんじゃないか」と言っているのが聞こえた。ごはん時になると

「いただきまーす。」

 という大きな声が、西城さんの部屋から聞こえた。少し、元気なようで安心した。

 翌日になって、厚着をした西城さんが車いすに乗って、廊下に出てきた。職員が病院に連れていくようだ。顔色がよくない。早く、病院に連れて行ってみてあげてほしい。

「骨折してたら、入院になるかもね。私も、腰の骨折っちゃって、入院して大変だったのよ。年寄りはね、少しのことですぐ骨が折れちゃうのよ。」

 吉井さんが言った。その横で、五十嵐さんが、何も関係ないようにお茶をすすっている。

「骨折怖いわね。私は、どこも悪くないからわからないけど、痛そうよねえ。」

 そう言うと八木さんは席をたって、西城さんのそばに行き、

「頑張ってね!!頑張って!!」

 と言い背中をさすったり、おせっかいを焼きに行く。

 エレベーターが空くと、職員が八木さんに席に戻るように促し、西城さんと一緒にエレベーターに乗って消えた。


 それから、3時間後だ。

 車いすに乗った西城さんが職員と一緒に帰ってきた。

「総合病院で全然見てもらえなかったのよ!!発熱してるから、今日はPCR検査をしただけで帰されたの。明日、また来てくださいって。」

 職員同士で話をしているのが聞こえた。

「えー、じゃあ、状態もわからないの?」

「いやー、これは間違いなく骨折してる。」

「発熱は骨折によるものでしょう。ここでだって検査して陰性だったんだから、それじゃだめなの?」

「数日前だし、病院で検査しないとだめなんだって。」

「それで、陽性だったら、どうなるの?」

「ここで、治療してから、診察になるって。」

「ひゃー、じゃあ、救急搬送しちゃえば。」

「施設長の許可が下りないのよ。」

「ねえ、オムツ交換とか着替えはどうするの?」

「対応を考えなくちゃね。」

 数人の職員に囲まれて、西城さんは部屋に入っていった。

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