第8話 PCRの結果

 検査結果と言うのはこの年になると、どんな検査でも緊張するのよ。悪い結果が出る経験をたくさんするからね。

 声をかけられて移動する人が、陽性の人だ。

 1番前のテーブルに人たちは全滅だった。コロナはやっぱりうつりやすいようだ。きっと、職員が食事介助をしてるからだろう。職員がコロナを持ち込んでるんだろうね。でも、世話にならないわけにはいかないからね。

 合計で16人中6人陽性だった。部屋からベッドと洋服が運び出されて、別の病棟に移動する。

 私のテーブルの人は全員陰性だった。

 八木さんは、運び出される様子を見てきて、あの人の荷物はあーだのこーだの、話してくる。ちょっと、面倒くさい。吉井さんが、「人の不幸を見て喜ぶんじゃない。」とピシャリと言って、八木さんは黙った。

「この人はね、面倒くさいところがあるのよ。だから、言いたいことがあったらしっかり言わないとだめよ。まあ、言ってもけろっとしてるような人だから、悪い人じゃないのよ。子供だと思って。」

 吉井さんが私にそっと耳打ちする。私は、当たり障りのない笑顔で返す。

 コロナに感染した人が別の棟に行き、ぞろぞろと別の棟から感染していない人がきた。その数9人…。職員が即座に椅子を追加していって、私のテーブルにも1人新しく人が来た。

「みなさん、3階から来た五十嵐さんです。よろしくお願いします。」

 と、介護士が私たちに紹介する。品がよさそうな女性だ。

「五十嵐さん、こちらは八木さん、常盤さん、西城さん、吉井さんです。」

 介護士は、五十嵐さんに私たちのことを紹介し、テーブルに養生テープを貼って、名前を書いていく。顔には疲労感が漂っている。

 ほかのテーブルも同様に椅子を増やし自己紹介をして、テーブルに名前のテープを貼る作業をする。

 この変化に対応できないのだろう。頭がおかしい人は余計におかしくなっている。うろうろ歩き回ったり、「家に帰る」とわめいたり、喧嘩を始めたり。その度に職員が対応する。大変だ。

 横山は、陰性だったみたいだ。さっき私と喧嘩して疲れたのか、車いすに座って寝ていた。ずっと、寝てればいいのに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る