指定席には座れない
その時私の頭を占めていたのは、その一言に尽きた。確かに色々なものが溢れてはいた。二十余年の記憶、捨て場すらなかった感情、浴槽のお湯。腕から滔々と流れ出る血液を巻きこんで溢れる、浴槽のお湯だ。薄ら赤い流水を見ると不思議な気持ちがした。これまで、出血したことがないわけではない。けれどその度、私の血は赤いのだなあと、何度認識しても慣れずにいたことも事実である。思えば、周囲と己との私を見る目の差異に説明を付けたくて、きっと血の色が違うのだと稚拙な言い聞かせをしていたのかもしれない。今際の際になお血の色を不思議に思うということは、それもあながち、小学生の安易な発想だと軽んじることもできまい。
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