第7話 物語の始まり

 森の主を討伐することに成功すると、ララクの分身は消滅していった。


「うわっ、おっとっと」


 【ウェイトアップ】によって体重が増えたことにより、ララクの体は重力によって落ちて行く。

 しかし、地面に足が触れる瞬間に【空中浮遊】で持ち直したので、体が血で汚れることはなかった。


「皆さん、無事ですか?」


 空中を浮遊したまま、疾風怒濤のメンバーへと近づいて行く。


「ふざけんな。これが大丈夫に見えっか?」


 無事、ケルベアスはいなくなったとはいえ、彼らの体はひどい状態だ。比較的デフェロットが軽症で、言い返す力は残っているようだ。


「ですよね。それじゃあ、【ヒーリング】+【スキルアップ】」


 ララクは回復系のスキルを3人に使用した。


 3人の体が緑色の優しい光で包まれていく。これは回復系のスキルの特徴だ。

 そして、徐々にではあるが肉体への傷が消えていく。


「……傷が癒えていく。キミは【スキルアップ】なんて持っていなかったはずだ」


 重症だった自分の体が治っていくのを肌で感じたガッディア。

 少し前までのララクの回復力では、重症を癒やすことは難しかった。


「まぁ色々ありまして。でも、元々の【ヒーリング】の効果が薄いので、回復スピードはあんまり速くないですけど」


 レベルによってスキル効果は上がっていくが、【ヒーリング】は回復速度や回復量ではなく、魔力消費の少なさをうりとしている。なので、強化されても回復性能はいまいちだった。


「そもそも、どうやって急激にあれほどのスキルを得たんだ?」


「えーとそれは、説明すると難しいんですが、【追放エナジー】というパッシブスキルを獲得しまして……」


 ララクは3人に泉で起きたことを全て説明した。


 それを聞いたメンバーたちは、同じリアクションをとるのだった。


『他の冒険者のスキルを獲得した!?』


 デフェロットやレニナはともかく、ガッディアまでも冷静さを欠いて大声を出すありさまだった。


「えーまぁ、簡単に言うと、さっきの使ったスキルに皆さんの物も含まれていますし」


 デフェロットの【エアスラッシュ】にレニナの【空中浮遊】。そしてガッディアの【ウェイトアップ】など、先ほどの戦いでララクは3人のスキルを主軸に戦闘を行っていたのだ。


「し、信じがたいが、この目で確認してしまったからなぁ……。追放を数多く経験したララクだからこそ獲得できたスキル、ということか」


 もちろんガッディアは隠れスキルのことは知っていたが、そのスキルについては一切聞いたことがないようだ。

 この【追放エナジー】というのは、獲得可能者の少ない希少スキルよりも、さらに数が少なく、しかも獲得条件が鬼のように厳しい幻のスキルなのだ。


「っふん、なによ。じゃあ、私たちのおかげでそれが発現したってことじゃない。感謝しなさい」


 ララクに重傷だった傷をある程度癒して貰ったにもかかわらず、レニナは態度を変えていなかった。けれど、彼女の言い分もある意味合っている。


「えぇ、そうです。だからこうして助けに来たんです。感謝しているんです。疾風怒濤だけじゃなくて、今までボクを加入させくれた人たちにも。

 だって、のちに追放したとはいえ、スキルが1つしかないボクを仲間にしてくれたんですから」


 実はというと、ララクを追放した冒険者は、全員が全員デフェロットのように高圧的な態度だったわけではない。半分以上は、ガッディアのように客観的に考えて、パーティーメンバーとしては厳しい、と判断したが故の追放だった。


 ララクの人格がそこまで歪んでいないのは、こういったことも関係しているのかもしれない。


「……おい、ララク。正直、さっきの戦闘はしびれたぜ」


 珍しく素直にものをいうデフェロット。自分たちが助けられたことは事実なので、そこはしっかりと評価しているようだ。


「え、あ、ありがとうございます。スキルの使い方は今まで見てきたので、凄く戦いやすかったです」


 彼は今まで、後方で冒険者地の戦い方を観察してきている。その経験があるからこそ、多彩なスキルをすぐに使いこなすことが出来たのだ。

 何故なら【剣適正】のような、持っているだけで武器を自然と動かせるようになるスキルはあるが、《スキルを使いこなせるようになる》という内容のバッシブスキルは持っていなかったからだ。


「まさかキミは、今までパーティーを組んでいた冒険者のスキルと戦い方を全て覚えているというのか?」


「はい、そうですけど」


 ガッディアの質問に、「普通じゃないですか」といいだげなキョトンとした表情でララクは答えた。


「ははっ、末恐ろしいよキミは。きっと、キミじゃなければそのスキルを100%使いこなすことは難しかっただろう」


 冒険者パーティーの平均メンバー数は4人。そしてそれにララクを引くと3人。それが×100なので、単純計算で300人以上も出会ってきたということになる。

 さらにスキルはパッシブスキルも含めて、1人で10個以上所持していることもあるので、とてつもない量のスキル数ということになる。被りを含めたとしても、その数は膨大だろう。


「……あー確かに、ガッディアの言う通りだ。お前の力は相当なもんだ。だからよぉ、疾風怒濤に戻ってこい」


「……え」


 デフェロットの突然の提案にララクは言葉を詰まらせる。提案したデフェロットはというと、いたって真剣な顔をしている。


「ちょっとデフェロット、なんでまたこんな奴入れるのよ!」


「うるせぇな。こいつがいれば、俺らはレベル60の相手でも簡単に倒せるってことだ。そうなりゃ、もっと強いモンスターを倒して、レベルも金も稼げるようになる」


「そりゃ、そうだけど……」


 一度追放をしたので、レニナはすぐに彼を受けいれられないようだ。しかし、彼女も他の2人のようにララクの実力の高さを感じているはずだ。


「おい、ララク。どうなんだよ」


 デフェロットは自分の紋章を彼に向ける。これを使えば、再びパーティー契約を結ぶことができる。


 それを見たララクは、デフェロットにこう言った。


「それって、僕にメリットありますか?」


 悪びれることもなく、先ほどのキョトン顔で首を傾げた。


「は、はぁ!?」


 予想外、というか挑発的なその言葉に一瞬でデフェロットの怒りが爆発した。


「デフェロットさん、あの時言ったじゃないですかボクに。ボクがいることはデメリットはあるけど、メリットはないって。

 それってデフェロットさんたちも一緒ですよね?

 だってボク、皆さんのスキル全部使えますし。

 ヒーラーなら欲しいんですけどね」


 淡々と分析した内容を伝えていく。彼はヒーラーとして今までのパーティーに加入したので、必然的にヒーラーと組んだことはない。故に回復スキルは【ヒーリング】ぐらいしかないのだ。


「……何も言い返せんな」


 少しイラっとしたかもしれないが、ガッディアが怒ることはなかった。

 しかし、他の2人は違う。


「てめぇ、なんだよその言い方はよぉ!」


「そうよ! ついさっきまで弱っちぃ木偶の棒だったくせに!」


「っえ、いや、ボク間違ったこと言いましたか? それに、パーティーに入れてくれたお礼はさっきので返したつもりなんで、せっかくのお誘いですけど断らせて頂きます」


 ララクは軽くその場で頭を下げる。ケルベアスとの戦闘で、すでに恩返しは済んだ気になっているようだ。


「っくそがぁ! 調子に乗りやがって!」


 自分が追放した相手に、今度は加入を断られる。自分のプライドを捨ててスカウトした分、彼の怒りを買ってしまったようだ。


「お、怒らないでくださいよ! ……あの、それじゃあボクもう行きますんで。まだまだスキルを試したいんですよ。

 これでようやく、皆さんのような立派な冒険者になれるんですから」


 彼は笑顔でそう言った。見事な、アメと鞭である。しかし、ガッディアはそれに気がついていたが、怒りで冷静な判断を出来ていない他の2人は、その意味をよく分かっていなかった。


 ずっと後ろから冒険者たちの勇姿をララクは見てきた。

 そして、諦めずにここまで彼は冒険者を続けてきたのだ。


「じゃあ、【テレポート】。皆さん、お気をつけて」


 彼は瞬間移動のスキルを唱えると、疾風怒濤の3人に手を振る。そして次の瞬間、彼の体は光となって消滅していった。


「……い、いなくなりやがった」


「な、なんなのよもう」


 怒りの矛先が急にいなくなってしまったので、2人はそれをどこにぶつけていいか分からなくなっている。


「あの子、しっかりと仕返しはしてきたな」


 ガッディアは、自分たちがララクを泉に1人で置いてきたことを思い出す。それが今度は、自分たちが置いてた行かれる側に、あっという間に立場が逆転してしまったのだ。


「そうじゃねぇか! あの野郎、【テレポート】があるなら、俺たちを街に戻せたじゃねぇか!」


「えー、最悪。こっから、帰るの面倒くさいんだけど」


 傷は多少癒えたとはいえ、完治しているわけではないし、疲労感は残ったままなのだ。


「ちくしょう! あの小僧、やっぱりいけすかねぇ! 今度会ったら、ただじゃおかねぇからなぁ!」


 デフェロットは消えたララクに届くように、上空に向かって叫んでいた。

 そしてその怒号は、主のいなくなった静かな森一帯に響き渡っていく。


 こうしてデフェロットの恨みをかいながらも、100回追放された超万能冒険者 ララク・ストリーンが誕生するのであった。


 しかし、【追放エナジ―】を得た彼の物語は、まだ始まったばかりである。




【あとがき】

ここまで読んでいただきありがとうございます!

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