無意識

 ひと気のない倉庫に呼びだされたと思ったら、前後左右からめった刺しにされた。

 全身にナイフや包丁やカッターが突き刺さり、「あれ、俺って黒ひげ危機一髪だっけ?」と思うレベルである。

 冗談を言っている場合ではない。誰が俺を刺しているのか、俺を呼びだした奴はどこにいるのか。力なく抵抗しながら観察して、どうやら俺を狙ったのは商売敵らしいと分かる。

 余談だが俺は〝ヤ〟のつく物騒な職業の者だ。どんな末路を迎えても仕方のないことを山ほどしてきたが、闇討ちされるのは想定外だ。

 冷たいコンクリートの床に倒れてもなお、俺は刺され続けた。しまいにチェーンソーの音まで聞こえ始め、体は細かく刻まれた。

 しかしどういうわけか、俺は死ななかった。

 俺は体の一部だけになっても生き続けたのだ。倉庫に残っていた肉片同士がくっつき、辛うじて右手だけがもとの形を取り戻した。他の部位は余所に捨てられたらしく、見当たらない。

 なぜ俺は死ななかったのだろう。右手だけで放浪しながら、はっと思いついた。

 愛しているゲームがある。ボールを投げてモンスターを捕まえ、育ててチャンピオンに挑むアレである。アレの新作が今度発売されるのだ。

 そういえば無意識のうちに「ゲームをクリアするまで死にたくない」と思っていたかもしれない。思いの強さが俺の現状を生んだのか。

 だとすればゲームに感謝だ。一刻も早くプレイしたい。

 そのためにまず体を集めなければ。こうして俺の旅は幕を開けた。

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