灯す

 目が覚めたら真っ暗闇にいた。僕はベッドから体を起こして、あまりの奇妙さに首を傾げる。

 ベッドの右側には小さな窓がある。カーテンを開ければ家の近くの道路が見え、橙色の街灯も目に映るはずなのに、どこにも無い。

 枕元のスマホで周囲を照らそうとしたけれど、どれだけ手で探ってもそれらしい感触が無かった。寝ているうちに床へ落しただろうか。

 足を下ろそうとして、ひゅっと息をのむ。

 床が無い。足の裏がフローリングに着かないのだ。咄嗟に体を乗り出してベッドの下を見るけれど、果てのない闇だけが広がっている。

 僕はまだ夢から覚めていないのだろうか。時計の秒針すら聞こえず、焦燥感と不安が胸を蝕んだ。

 とりあえず明かりが欲しい。せめて自分の手元だけでもいいから照らしたい。

 いつまでもベッドでじっとしていられない。僕は覚悟を決め、勢いよくベッドから飛び降りた。身体はそのまま落下するかと思いきや、普段立っているのと変わらない感覚が足にある。どうやら暗いせいで床が無いと思い込んでいたらしい。

 身を屈めてベッド脇を探ると、求めていた硬さが指先に当たる。やはりスマホは落ちていたのだ。

 ひとまずこれで明かりを確保出来た。安心したのも束の間、画面を灯せば充電残量が一桁しかない。落下した衝撃で充電器が抜けたとみえる。

 ふと気配を感じて顔を上げた。

 待ち受け画面が放つ薄ぼんやりとした光に、僕の身長ほどもある巨大な目玉が照らし出される。

 今のはなんだ。愕然としている間に、スマホの充電が切れる。

 僕の絶叫は誰にも届かず、闇に吸い込まれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る