交換

 自分ではないなにかになりたいと思った。

 例えば〝王子と乞食〟みたいに、立場が正反対な誰かと入れ替わる。俺はその日に食う飯さえ無い状態で街をさまよい、偶然出会った裕福な奴の思いつきで、そいつに成り代わって過ごすことになるのだ。

 上等な服に、食っても減らない大量の飯。身の回りの世話は全部使用人がしてくれる。

 そんな都合のいい話は、そうそう転がっていないのだが。

 現実の俺は乞食ほどではないにせよ、それなりに生活に困っている。賃金は上がらない、職場の環境も良い方では無い。家族仲も悪すぎて、父からは勘当を言い渡された。

 贅沢は言わない。今の生活を変えられるなら、どんな奴とでも立場を交換したかった。

 仕事で疲れきり、玄関で倒れこんだ直後に眠った日のことだ。

 俺の夢に、眩い光が現れた。そいつは人の形をしていて、老若男女どれとも取れる声で〝神〟を名乗った。曰く「どんな願いでも一つだけ叶えてあげましょう」とのことだ。

〝神〟が本物かなんてどうでもいい。俺は必死に「誰でもいいから生活を入れ替えたい」と望んだ。

 結果、起きてから一番初めに目が合った奴と入れ替われることになった。

 大事なのは〝誰と入れ替わるか〟だ。慎重に選ばなければ、今より悪い生活に陥る可能性もある。

 他人と迂闊に目を合わせないよう、俯きがちに外へ出る。足元には蛙が一匹いた。

 ぎょろりとした瞳が、真っすぐに俺を見つめている。まずいと思った時には遅かった。

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