いつか
大きくなったらどんなことをしたいか、僕は卒業文集になんて書いただろう。
小学生の頃は警察官に憧れた。だからきっと、将来の夢もそれに関したものを記した気がする。
結局、実力より少し背伸びをして進学校に入ったものの、勉強や周囲についていけず疲弊した。公務員試験を受ける気力も無く、就職にも二年近く失敗し続けている。
けれど夢を完全に諦めてはいない。いつか子どものころの夢を叶えるのだ、と自分に言い聞かせ、僕は無味乾燥な日々を生きていた。
毎日に彩りを与えてくれたのは、地下アイドルの存在だった。
たまたま劇場の前でチラシをくれたのだ。なんとなく気が向いて足を運んだら、明るい歌声と眩しい笑顔の虜になっていた。
ライブからの帰り道であらゆるSNSをフォローし、ファンクラブにも入会した。己の行動力が恐ろしい。特に推している子が一人いて、誕生日や身長、好物をしっかり覚えた。オフの日の過ごし方や、ライブ当日のルーティンも把握した。
推し始めてから一ヵ月が過ぎた頃、ホームページに「メンバーへの付きまとい行為」なる題名の記事が出た。どうやら熱心なファンがストーカーと化し、迷惑をかけているようだ。
ああ、そうだ。僕ならきっと推しを守れる。
いつか警察官になって、推しを苦しめるストーカーを捕まえるのだ。そうして推しに感謝され、あわよくばそのままお付き合い、なんて夢もあり得ない話ではない。
遠くない未来を想像しながら、電柱の明かりが頼りの夜道で、僕は推しの背中を追いかけた。
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