第1話 干渉 part1

6.29 │Ft0%……


 人の行き交う駅。今日も年層バラバラな人々が都市部の街を歩く。

 電気街ということもあり、やたらとオタクの姿もたくさん見える。少し離れたベンチに腰かけているのだが、一向に人々の足音はなり止まない。


 1人暮らしを始めて1年もしていないのだが、不慣れなせいかこの環境に未だに馴染めない。


「はぁ。都市部だからこれが当たり前か。あいつが来たら同人ショップにでも誘おうかな」


 スマホを取り出しながらぼそっと愚痴る。そんな俺自身もオタクの部類には入ってくるが表面上はごく普通の学校に通う高校生だ。……友達はそこまで多くないという話はあまり首を突っ込まないでもらえると助かる。


 ストアで虱潰しにアプリを探す。ソシャゲも一応は入れているが浮上率はそこまで高くない。親から『課金アイテムなんて得することなんて何もないぞ』とよく言われる。ので毒される前に俺はソシャゲ以外に面白そうなアプリを探しているが……むむむ。

 飽くまで入れていたらとても便利になるようなツール系のアプリを探しているが、一向に見つからない。それはおろか。


「星2以下の低評価レビューのついたアプリばかりだな。ろくなアプリが1つもないじゃないか」


 スクロールを下に下へと指を動かしても低評価のアプリばかりだ。……ちまたではこういうのをクソアプリというらしいが。

 どれも胡散臭いアプリばかりである。『入れるだけで100万円もらえる神アプリ!!』や『無料アニメDLし放題』みたいな合法的なアプリの数々が。

 検索ワードには1ミリもそういうものは書いていないはずが、どうしてこういうアプリにヒットしてしまうのか。


 そうして時間を潰していると。


「やぁお待たせ待った?」

「おっと。来ていたのか……予定より早いな」


 髪が肩まで伸びた少女。ほんわかとした笑顔が特徴的で目も生き生きとして見開いてる。

 手にはナイロン袋。……あぁ近くのコンビニでなんか買ってきたんだな。ペットボトル2本に後はいつも買ってくるお気に入りのパンだろうか。


「時間あったから今日も買ってきちゃったよ~。はい櫂翔かいと君」

「さんきゅ。今日はスポドリかよ。……まあこんな炎天下歩くなら最適な飲み物かもしれないけど」


 袋のガサゴソと漁り手渡してきたのは、猛暑日の味方であるスポドリ。……別にスポーツなんてやっていないんだが、夏なんだしこれは気が利くな。

……毎回こいつが渡してくる飲み物は完全にランダム性。この前はミカンジュースのKoo、その前はおーやまお茶。規則性は全くなく完全に気分次第な少女である。


 まあでもさすがにここで断ると、わざわざ払って購入してくれた彼女に申し訳ないので、毎回嫌な物が出たとしても騙されたと思って飲んでいる。……だが彩折もうコーヒーコーラという悪魔のような飲み物は買ってこないでくれ頼む。


 俺の名前は高条櫂翔たかじょうかいと、目の前にいるのは俺の幼なじみである相沢彩折あいざわさおり

 同い年で近くの学校へ共に通っている。


 今日は金曜日つまり終末。時間に余裕があったので待ち合わせで遊ぶことにしていた。時間がないときはいつも一緒に帰るが暇なときはその時のノリで遊ぶこれが俺達2人の平常運転である。


「んじゃそろそろ行くか。バテて倒れない内に」

「あ、待ってよ櫂翔君! もうだから足早いって!」


◎ ◎ ◎


 彩折に同人ショップに行こうと声をかけるとすんなりと了承してくれた。……彩折も外見の可愛さに似合わないオタクであり、同人イベントには毎回参加している。俺は時々しか参加しないのだが、本人曰く色んな人と絡めるので楽しいとのこと。


 まだ都市部不慣れな俺にとっては狭き門だが、まさか彩折俺を今度はそこに誘導しようと……まあそれはないか。なんだかんだ彩折は俺にとても気遣ってくれるしな。


 所狭しと置かれた本のコーナーを回っていると彩折は目をキラキラさせながら見回していた。興味があるのがいいことだが俺がいることを忘れないでくれよ。

 しばらくして彩折の購入が終わり、店から出ると彼女が話しかけてくる。


「でね、この同人誌欲しかったんだぁ~。だってなかなか入荷しなかったから困ってたんだよ~」


 嬉しそうに袋の中から買った同人誌を眺めながら、嬉しそうな笑みを浮かべていた。因みに彩折は腐女子でもましてやエロ好きな女ではない。完全に俺同様非エロ派である。


「お前その作家さん好きだよな。俺はエロこそは興味ないが好きな作家が見つからないんだ」

「あそうなの? ……うーんわかった。なら今度櫂翔君が好きになりそうな作家さん教えてあげるよ」

「それは楽しみだなどんな作家さんを紹介してもらえるか楽しみだ」


 程なくして元の道へと帰る。

 時間もいい具合になってきたので、そろそろ解散することにした。


「それじゃ櫂翔君待ったね~」

「気をつけて帰れよ。寄り道はだめだぞ」

「わかってるよ。あ、あとね櫂翔君」

「なんだ?」


 最後に何か言いたげにする彩折。目線を少し落とし少々不安げな視線を俺に向けてくる。


「都市部に来てからまだ不慣れでしょ? その何かあったら連絡してね欲しい物とか。……あぁでもフィギュアとかはだめだよ?」

「しないって。……まあそうだな人が多い場所はまだ慣れてないから、何かあったら連絡するよ」


 彩折にそう答えてやると満足げに笑い踵を返し向こうへ駆け出す。


「それじゃ私こっちだから。櫂翔君こそ寄り道しちゃだめだよ! それじゃあね!」


 駅側に駆け出す彩折は次第に人混みの中に入り、姿を消した。

 住んでいる場所は少し先だから、家は俺の住んでいる場所と違うんだよな。


「さて俺も、ちょっと買い物にでも行って帰ろうかな」


 彩折を見送ると家の方面へ赴き、帰路を進むのだった。

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