第4話 後ろの男は刑事だった

<くそっ! 捕まったか>

 アミは藻掻もがきながら、金ヅチを振るう機会をうかがった。

「静かにしてください。あいつに見つかりますよ」

 ささやくような声が聞こえる。その声から考えて、後ろにいるのは男らしい。言葉を話しているから、ヤツではなさそうだ。

「放してください」

「静かに。私は警察です。安心してください」

 そう言って、後ろの男は手を離した。


「大江戸署の刑事、森本です」

 森本と名乗った男は、警察手帳を提示した。

「森本次郎」と書いてある。30歳代後半といったところか。

「それで、あなたは?」

「本田アミです」

「あなたのような若い女の人が深夜に、こんな人気ひとけのない場所で何をしているんです?」

<職質か……>

「そこの工場に勤務しているんですが、忘れ物を取りに来たんです。すぐに必要なものだったもので」

 アミはうそをついた。見え透いた嘘とは思ったが。

「ほう。それで?」

「事務室に入ったら、突然大きな男に襲われたんです。とっさに、近くにあった金ヅチで、男の頭を殴りました。これって、正当防衛ですよね」

「そうかもしれません。それで?」

「だいぶ顔や頭を殴ったんですが、立ち上がって追いかけてきたんです。逃げたけれど、しつこく追ってくるので、この物陰に隠れていたんです」

「なるほど。あいつはたい細胞の蘇生そせい能力が極めて高いので、頭を殴ったくらいじゃ、死なないな」

「あの男は、いったい何なんです?」

「それは……」


 森本が答えようとした時、川の方から金属か何かが崩れて散らばるような音がした。

 彼らのいる物陰の横は路地になっている。その奥の、川に沿った金網を乗り越えて、ヤツが来たのだ。

 街灯の弱い光に照らされたヤツは、ジャージのような服を着た大男だ。

 頭や顔は血だらけで、原形を留めないくらい変形していている。


「話はあとだ。ひとまず逃げよう。あちらへ、全力で走りますよ」

 森本は、アミが来た方向を指差した。

《続く》 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る