第3話 背後に誰かいた

 ふと気が付くと、カナヅチを握った右手が、ブルブルと震えている。

 暗くてよく見えないが、カナヅチはの部分まで血だらけなのだろう。手にはめた作業用手袋を通じて、ヌルヌル感が伝わってくる。

<いったい、あれは何なんだよ。モンスターか、ゾンビか?>

 あれだけ顔面や頭部に損傷を受けたにもかかわらず、立ち上がって追ってくるとは、人間わざとは思えない。


<でも 、ついに『決して人を傷つけない』というおきてを破っちゃったな……>

 そんな考えが頭をかすめたが、今はそれにこだわっている暇はない。早く次の一手を決めなければならない。


 このまま走ってヤツをくか。

 この辺りの建物に逃げ込んで、息をひそめるか。

 それとも、ヤツを待ち伏せして、反撃に出るか。


 考えているうちに、男の黒い影がフッと消えた。アミから見て左側、つまりアミがいるのと同じ側の、30m先にある路地に入ったのだろう。工場こうばと工場の間にある、狭い路地だ。


 アミが下見をしたところでは、その路地は行き止まりのはずだ。路地の先に川があるからだ。しかし、川岸と路地を隔てる金網はたいして高くはない。それに、川岸はコンクリートで覆われ、上部は幅1mくらいの平面になっている。だから、川岸を経由してこちらに来ることは可能だ。


<ヤツは何のために路地に入った? 私に不意打ちをくらわすため?>

 アミの右手の震えが腕を登っていき、すぐに全身に広がっていった。

 と、その時、突然後ろから誰かの手が伸びて、アミの口を塞いだ。

《続く》 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る