第2話 アラサー女子、夜はドロボー

 携帯電話で110番することは……できない。

 町工場に空き巣に入って襲われました、なんて警察に言えるはずもない。


 アミ。アラサー女子。独身。

 日中は、ある会社の総務グループ契約社員。これは表の顔。

 裏の顔は……ドロボー。


 ドロボーといっても、漫画やテレビドラマにあるような、大金持ちの家から大粒のダイヤモンドを盗み出すような華麗なものではない。

 深夜、誰もいないオフィスや町工場に忍び込んで、金目の物をあさる、ケチな空き巣だ。


 ドロボーとしての信条は、ただ一つ。


 【絶対に人を傷つけない】こと。


 アミには人には言えない性癖があった。物を盗むことに、異様な高揚感と達成感を覚えるのだ。

 きっかけは、小学校低学年の時、近くのコンビニで駄菓子の「まずい棒」を万引きしたことだ。それ以来、万引きが止められなくなった。幸か不幸か、一度もバレたことがない。


 就職し、一人暮らしを始めてからは、コンビニでの万引きでは満足できず、深夜、無人となったオフィスや町工場の事務所を狙うようになった。

 大きな会社や工場では、セキュリティー・システムが完備していて危険だ。警備員が常駐している場所も同様。


 今回狙った町工場は個人経営で、日中行った下見では、警備システムも警備員の常駐もないはずだった。


《続く》

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