頭のない追跡者

あそうぎ零(阿僧祇 零)

第1話 アラサー女子、追われる

<ちくしょう、まだ追いかけてくる……>


 アミは、道路わきの物陰隠れている。

 ぜいぜいと肩で大きく息をしながら、50mくらい後ろの暗闇をうかがった。黒い人影がまっすぐこちらに向かってくる。


 深夜で誰もいないはずの町工場の街に、そいつの足音がやけに大きく響く。


<確かに、頭をカチ割ったはずなのに……>

 ほんの10分くらい前にアミは、その男に相当のダメージを与えているはずなのだ。


 アミは小さな町工場まちこうばの事務所に忍び込んで、金目かねめのものがないか物色していた。


 ところが、部屋の隅の暗闇から、突如大きな男が現れた。一言ひとことも発することなく襲いかかってきて、アミを押し倒したのだ。

 アミに馬乗りになった男は、両手でアミの首をつかみ、万力まんりきのように力を加えてくる。その手は人並はずれて大きい。

 何やら動物じみた強烈な臭いが、辺りを包んだ。



 アミは、工場に忍び込んだ時に見つけたカナヅチをズボンのポケットに入れておいた。これをつかみだすと、思い切り男の後頭部を叩いた。


「ぐっ!」


 低くくぐもったうめき声とともに、男はひっくり返って、アミの隣で仰向けになった。


 アミは素早く立ち上がると、金づちを男の顔めがけて、思い切り振り下ろした。


「ボグッ!」


 鈍い音を立てて、金づちが男の顔がめり込んだ。


 今まで味わったことのない恐怖に駆られて、アミは何回もカナヅチを振り下ろした。顔はぐちゃぐちゃになり、一方の目から眼球の一部が飛び出した。頭の陥没部分からは、脳漿のうしょうが流れ出した。

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