第30話 告白
悪巧みをする久美を止めて、これから実行することの確認をする。
まずは、普通に鴨川の爺さんに、久美と仁の仲を認めるように
「私たちの話を素直に聞くとは思えないわね。でも、萌の処の
久美は考え込んでいる。
婆ちゃんズがいるのかまでは分からないが、触れないでおこう。
俺陣営の祖父母は当然、久美の事も知っているし可愛がっている。俺の友達である仁の事もよく知っている。
ちなみに紅葉婆ちゃんと楓と久美は仲良しなので俺のいないところで、恋バナもよくしていたらしい。
まあ、そこで俺の情報もだだ漏れていたみたいなんだけど…。
萌香の事も含めて…。
これは、楓から最近になり教えてもらった。
ということで、俺たちの味方は多いはず。
うちの爺達は一応俺の味方であると思っているが、買収されていないか不安はある。
最後の手段の1つとして鴨川の女将さんを召喚するという方法もあるが、これは本当に最後の手段にしたい。
でないと、鴨川会長が…。
「ま、なんとかなるだろ?」
不安な気持ちを抑え、軽く言う俺。
これでうまく行くならそれに越したことはないがそう簡単に済むなら多分ここまで話は拗れないと思う。
まあ、何を言っても一筋縄では行かない頑固ジジイならば、俺も覚悟を決める。
いや、既に決めてある。
最後の手段の2つ目として、こんなロマンのかけらもない中でモカにも悪いとは思うが、ここで俺の気持ちをはっきりと伝えるつもりだ。
つまりは、【告白】である。
これについては、学校で仁には相談してある。
出来れば、もっと雰囲気のいいところで告白できれば良かったとは思うが、ヘタレな自分がそんな場面であっても告白できるとは到底思えない。
ずるいとは思うけど、仁と久美の為とか言い訳をして自分を追い込まないと、動けないヘタレなんだ。俺は…。
モカには申し訳に気持ちでいっぱいだけど覚悟は決めてある。
さて、ミーティング?も済んだことだし爺さんたちの処へいきますかね?
仁も覚悟を決めた顔をしていた。
* * *
居間でバイクなんかの話で盛り上がっていた爺さんたちを見つけた。でっかい声で話してるからすぐに分かった。
残念ながら婆ちゃん2人はいないみたいだ。
そしてなぜか、ところどころ俺の名前が出てくる。
いったい、何の話をしているんだ?
しかし良かった。酒は入っていないようだ。
酒が入っていたら話にならない処だった。
「ただいまぁ。爺ちゃんたち揃ってるね?今日は、友達も一緒に来てるからね。こっちに入ってもいいかな?」
少し硬くなっちまったか?警戒されたかな?
俺の心配を余所に爺ちゃんたちが挨拶しながら上機嫌に話しかけてきた。
「おぉ!萌!おかえり。こっちに来い!ちょうどお前の話をしていたところだ。」
いや、本当に何の話をしていたんだ?
「俺の話ってなんだ?禄でもない話なら怒るかもしれないけど?」
念のため、牽制しておく。
「禄でもない話ってなんだよ?お前のバイクの腕が上がってるって話だぞ?
萌のWR250RにダンロップのBuroroだっけか、ほぼオンロードのタイヤはいてるだろ?あれ、真司がオン、オフの二刀流とか言ってやってたやつだからな。
スイングアームも高さも変更なしだ。
普通にWR250のモタード(X)を買えば済む話なのによ。ジムカーナ仕様とか抜かしてやがったな。しかし、あれでよく、林道とかの砂利道を走れるなって話をしてたんだよ。低速ならともかく、普通に走るのは怖くねぇのか?
あのタイヤじゃ、砂利の地面対してまともに食いつかねぇだろ。
おっかないから俺ならタイヤを変えるね、いや普通は変えるぞ?
あれじゃ、まともにまっすぐ走れねぇよ。」
鴨川会長が俺に語ってくる。
今日はそういう話じゃないんだけど、褒められることは珍しいため素直にうれしい。
「いや、山間の砂利ばっかの海外で走るつもりだったから林道で練習しているうちに怖さはなくなったよ。トラッカーに乗っているカモガワのお客さんに滑りを制御するコツ教えてもらったんだよ。」
少し得意になって俺は言うが…。
それを聞いていた鴨川会長が怒り出す。
「萌、物には適材適所ってものがある。あのバイクは林道を走れる代物じゃねぇ。
お前は割と器用だからそれなりにこなすが、お前は自分の命を軽く考えるところがあるよな?俺はお前のことが大好きだけどな、そういう危なっかしいところは嫌いだ。
それに怖くはなくなっただと?
怖さを忘れたやつは調子に乗って大けがするって相場が決まってるんだ!!
青二才が!!」
そこまで言うか?!
会長に続けて、
「そうだぞ萌、そういうことしたいなら、俺たちに聞け!
お前がやりたいということを
そもそも、今回の話はな、バイク選びから間違ってんだよ。
そういうことがやりてぇなら、FTRとかスクランブラーにしとけ!ああいうのは低いバイクで足つきいいバイクじゃなきゃあぶねえんだ。何のための俺たちなんだ?お前たちに怪我をしてほしくねぇんだよ。相談にはいつも乗ってるだろ?どうしても欲しいなら俺のやつをやるぞ?」
いや、爺ちゃん、話の本筋が変わってるから…。
それから爺ちゃんのスクランブラーは中免じゃ乗れないから…。
確かにブロックタイヤだけれども。
爺ちゃんバイクマニアだからな。
タイヤさえ変えれば俺のバイクは最強のオフ車なんだけどな。
足つき性は悪いけど…。
俺が、会長と爺ちゃんの言葉にシュンとしていると、
「これだからこいつは…。気が強いのか弱いのかわからねぇ。
ま、でも今の自分で吐いた言葉は反省しておけよ。恐怖を忘れた者から怪我をするのは間違いじゃねぇ。それは救助でも一緒だからな。」
と、呆れられてしまう。
いや、どっちかといえば気が弱い方だと自覚しております。
あれ?今日は俺の反省会だったか?
なんで褒められてから袋たたきになってんのさ?
俺は後ろを振り向き、主役の二人を前面に押し出す。
俺の突然の行動に二人も戸惑っているけど…。
いや、爺さんたちも困ってるか?
そんな微妙な空気の中、深呼吸した仁から話を切り出す。
「会長、お話を聞いてくれませんか?」
ものすごく冷静に話を始めたな。
「お、警備屋の倅か。どうした?なんか用か?」
爺がしらを切っている?
「お爺ちゃん、私からも話があるんだけど!」
久美さんはなんか怒ってないか?
「なんだ久美もか?二人でどうした?まさか交際でもしてるなんて報告じゃないだろうな?」
ん?なんか様子が変だなぁとか思いつつも、
仁が話し出したので、静かに聞いている。
「会長、そのまさかの話をしに来ました。お許しを頂けませんか?
最初にご報告に伺った際に、真司さんと会長から久美さんを萌と婚約させると聞きました。
でも納得できず、ここまで来てしまいました。」
「お爺ちゃんが反対しているって、萌と婚約なんて話聞いてない。理由もわからないし。どういうことなの?」
仁はすごい紳士だな。
婚約の話、久美は知らなかったんだ?俺も知らなかったしな。
「ん?いや、反対した覚えはないぞ?
……タダな、俺の気持ちを優先させるなら、そこにいる危なっかしいやつを久美には見守っていてほしかったんだよ。
おまえら二人は昔から仲が良かったからな…。
でも、婚約なんて話したっけな?
でも確かに、真司のやつも大張り切りで、これで萌と兄弟になれるって盛り上がっていたな。あの日は結構飲んでたしなぁ。」
「「「「えええええ?」」」」
なん?話が違うし、俺が悪いわけじゃないよね?
真司兄さん…悪乗りしたはお前の方かぁ!!
久美は「あの糞兄貴ぃ…コ●ス…。」静かにキレていた。
「会長それなら、交際は…?」
仁がほっとしたとばかりに、会長に確認していた。
「うむ、認めてやりたいところなんだけどな。萌の事を面倒みてくれるような奇特な娘が出てくるかね?
それから許可するにしてもだ、もし、泣かしたら…わかってるな?冗談抜きでだぞ?」
会長が言い終わるや、うちの爺さんたちが、
「「おい!爺!!うちのかわいい孫をなんだと思ってるんだ??」」
なんか思ってたのと違う展開なっていて戸惑う。
俺がどうしようかと思案していると。
萌香が俺の方を向いて、
「それなら、問題ありませんね。私は、初めから萌くんを側で支えていくつもりでしたから。ずっと前から、ね?萌くん?」
「え??う、うん。?」
ビックリしすぎた俺は、語彙力が崩壊した。
「「「ぇええええ??」」」
「ハジメ!俺と相談したことはなんだったんだ!?お前から言わないでどうするよ?!なんか、状況は違うけども、しっかりしてくれ!」
「萌!シッカリ!貴方から告白するはずだったんでしょ!」
仁と久美の言葉で
「俺も、萌香を一生支えていくつもりだ。こんなに人を好きになったことはないから最近までこの気持ちにも気が付かなかったけどな、間違いなく君に恋しています。
本当に心から好きです。付き合って下さい。」
言いきって、目をつむり利き手を前に出す。
これで手を握ってくれればOKらしい…。
でも、なんか、ぷ、ぷ、プロポーズみたいになっちまったァァ!?引かれてないか??
俺の心臓がバックンバックン鳴っていて、周り音がわからない。
こんなムードもない中で言うことじゃなかったかなぁ…。
色々なことを考えてしまっていたら、ドンっ!と俺の胸にものすごい衝撃が!
恐る恐る目を開けて下を見ると…。
萌香が俺の胸に飛び込み、泣きじゃくりながら抱きしめてくれた。
これは、OKということでいいんだろうか??
そして萌香から、
「嬉しい、やっと両想いになることができました。本当に長いことこの言葉を待っていましたよ…。もう、絶対離れませんからね!」
「俺も同じ気持ちだよ。ありがとう萌香。」
「本当にうれしいです。幸せです。
…モカと呼んでほしいけど、萌香も捨てがたいですね…。」
抱きあっていたが、デリカシーと遠慮のないオーディエンスの声が耳に入ってくる。
「「「「「ぉぉおおおおおお!!ピーピー」」」」」
声に驚き、萌香と目が合い急に気恥ずかしくなり離れてしまった。
萌香は、少し不満そうだ。
「やったじゃねぇか」
「良かったな萌、久美でもよかったんだぞ?」
「早くひ孫の顔を拝みたいもんだ」
言いながら、俺の背中をバシバシ叩いてくる。無駄に力強い。
祝福してくれるのはうれしいが、
爺様たちに見られていたと思うと死にたくなる…。
「おめでとう萌香!」
久美は萌香と抱き合っていた。
「男を魅せたな、萌!おめでとう!」
親友からの祝福に胸が熱くなるが、やはり恥ずかしい。
「ただいまぁ!あれ?お兄たち来てたんだ?何大騒ぎしてんの?」
なんか、最初の目的がわからなくなっている俺たちだが、楓が現れたことで色々現実味が出てきたというか、急速に冷静になっていく俺の脳みそ。
冷静になった俺の脳みそが一番最初に導き出したのが、
萌香と付き合えるなんて幸せ過ぎる。という事実と、
伊藤さんの時にはこんなに幸せな気持ちになることはなかったなぁ。ということだった。
もしかしたら、萌香が初恋ってやつなのかもしれないな…。
俺は皆が聞こえないくらいの小声で父さんに報告した。
「何とか、告白できたよ。父さん。」
【カッコよかったぞ、萌!】
父さんにも見られたのか…。
見守ってくれてありがとう。
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