第25話 見るべきもの

「では、お待たせしました。五番目、鷲見すみさんお願いします。」

あまねに呼ばれ、鷲見が発表の場についた。

スクリーンに映された画像には、周が予想した通りのデザインが並んでいた。

鷲見の発表に目新しさはなく、リサーチされている内容も若手デザイナーたちと変わらない。逆に言えば、取り立てて悪いところもないのだが、香魚子の完璧なプレゼンの後ではベテランのプレゼンとしての物足りなさが際立ってしまう。

質疑応答の時間、鷲見に遠慮しているのか誰も手を上げようとしない。

「ん〜誰も質問しないならこれで終わりってとこなんですけど…また俺から質問させてもらってもいいですか?」

周が言った。

「何言ってんだ、もう終わりだろ。進行役が質問する必要なんてないだろ。」

目白が苛立ちを隠さずに言った。

「そういうことは今までの発表者に質問した時に言ってくださいよ。鷲見さんだけ誰からも質問がないのも味気ないじゃないですか。目白部長から質問いただくのでも良いですよ。」

「…いや、いい。」

目白は咳払いをした。

「じゃあ俺から質問させてもらいます。」

周が言った。


「ケーキのイラストは4年前、クマのイラストは2年前に発売したバースデーカードと同じものを使っているようですが、何故ですか?」


周の質問に会場がざわつく。

(え……?)

香魚子も周の質問内容にも、周がこの場でその質問をすることにも驚いていた。

しかし、鷲見は思いのほか冷静に答えた。

「えっとぉ…私って、他の子たちと違っていろいろな商品のデザインをしなければいけないので、全部の商品に対して描き下ろししてる時間がないのよね〜。使い回しって言われたらあれだけど、他で使って好評だったイラストを使うなんて、よくあることよね。時短てやつ?」

「つまり、鷲見さんは売れっ子だから忙しくて時間がない…ってことですか?」

周が聞いた。

「ん〜まぁ、嫌味っぽくなっちゃうけどー、そういうこと。」

周はマイクを口元から外して小さな溜息をくと、再びマイクを持った。

「営業が、店の人からなんて言われてるか知ってますか?」

「え?」

「“またこのイラスト?” “前にも見たことある” “手抜きじゃない?”鷲見さんの新商品持ってくたびにこの質問されますよ。」

「売れっ子で忙しいから仕方ないと、本人が言ってるだろ。」

周の言葉に苛立った目白が割って入ったが、周は続けた。

「店の人にそう答えるんですか?そんなに忙しいなら、他のデザイナーに描かせたらいいじゃないですか。今日のプレゼン、鷲見さん以外の方は全員全て描き下ろしのデザインですよ。彼女たちだって他に業務をこなしているはずですが?」

「いや明石くん、しかしねぇ…」

今度は企画部長の鷹谷たかやが口を開いた。

「鷲見チーフのデザインはさすがベテランというか、他のデザイナーと違って一定の売り上げが確実に見込めるんだよね。使い回しだってよくあることで、悪いとは言えない。」

———ハァ

周は今度は大きな溜息をいた。

「鷹谷部長、あなたも何もわかってないんですね…」

「え」

「“他のデザイナーと違って”?そもそも、平等にチャンスは与えられていますか?“鷲見さん以外は売れない”みたいな、変なフィルターがかかってるんじゃないですか?」

周の口調は冷静だが、怒りを感じさせた。

「すぐに売れるデザインが作れない若手のデザイナーを、売れるデザイナーに育てるのが鷹谷部長と鷲見チーフの仕事でしょ?若手育成しないなんてただの職務放棄ですよ。」

周はさらに続けた。

「ここにいる営業全員わかってると思いますが、鷲見さんのデザインの商品はどんどん売り上げが下がってます。バースデーカードだって発売するたびに“前回より売れない”を繰り返してます。なんならJOFTジョフト各店の売り上げ、数字で提示することもできますよ。それなのに今回も同じようなデザインを、目新しい仕様変更もなく、同じイラストを使って発表された。客観的に見て前回よりも売れると思われますか?目白部長。」

目白は言葉を詰まらせた。

「店の担当者だってエンドユーザーだってバカじゃない。時短を言い訳に手抜きしてたら飽きられて客が離れますよ。営業だって同じような商品を同じような説明で売り続けて、楽しくないですよね。この中で誰か自社商品にプライド持って営業できてる人はいますか?いい加減目を覚ましてください。ピーコックラボが見るべきなのは社外のライバルと、将来の会社の在り方です。お騒がせして申し訳ないですが、明石からは以上です。」

周はマイクを置いた。

会場はしばらく静けさに包まれた。


———パチパチパチパチ


どこからか、拍手の音が聞こえた。

「お前…」

目白が動揺した表情かおを見せた。

拍手をしたのは鴇田ときただった。拍手は川井や他の営業にも伝播し、デザイナーたちも拍手していた。

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