第23話 鴇田

次の木曜日

香魚子はあまねに言われた通り、バースデーカードの社内コンペにエントリーした。

エントリーのメールを送信する直前まで香魚子は迷っていた。

(周さんのためのデザイン、ダメだったらもう使えない…でも周さんは結構自信ありそうだったし…)

最後の最後は周を信じて送信ボタンを押した。

(もしダメだったらもっと良いデザインのカードを作ればいい…)

何度も自分に言い聞かせた。


「コンペ、エントリーしました。」

帰宅後、香魚子は周に電話で伝えた。

「ひとまず資料作成おつかれさま。」

「…いままでのコンペとは違う緊張感です…不安ていうか…。」

「大丈夫だよ。きっと発売できる。」

周の自信がどこからくるのか香魚子にはわからないが、周と話すと安心する。

「たださー俺が考えてる方法だと、一人説得しなきゃなんないヤツがいて、それがちょっと面倒くさいんだよね。」

明石が溜息混じりに言った。

「説得?」


翌週 コンペ当日の朝

鴇田ときたにちょっと話があるんだけど、小会議室に来てくんない?」

明石は営業部の鴇田に声をかけた。

「なんすか?」

今 明石と一緒に動いている案件のない鴇田は、会議室で着席するなり怪訝な顔をした。

「鴇田、今日のコンペの進行役だろ?それ俺と代わってくんない?」

「…なんでですか?」

「ピーコックの商品力強化のため。」

「意味わかんないから無理っす。」

鴇田は断って部屋を出ようとした。

「お前また言われてんだろ?目白さんに、発表の順番操作しろって。」

「………。」

「いつまでそんなことやってんだよ。若い部下にそんなことさせる営業部長が一番悪いのは当然だけど、そこから抜け出さない鴇田も他のヤツらも悪いよ。」

明石は呆れた口調で言った。

「…明石さん、何するつもりなんですか?」

「べつに。発表の順番を入れ替えるだけ。」

「………。」

鴇田は少し考えた。

「…もしかして、鷲見さんと福士さんですか?」

「鋭いな。」

鴇田は周を睨んだ。

「明石さん、福士さんと付き合ってるんじゃないですか?偉そうなこと言って、目白部長と同じじゃないですか。」

「さすが鴇田、俺のことに詳しいな。」

明石が揶揄からかうように言ったので、鴇田は少しムッとした。

「まぁそれは冗談として、福士さんと付き合ってるからそこは否定できないけど、そんな私情でこんなことしない。」

「どうだか。」

「鴇田お前さ、資料全部見たんだろ?実際どう思った?鷲見さんが一番か?今までの商品より売れそうか?店の人が、その先のユーザーが、喜んでくれそうか?」

「………」

鴇田は黙ってしまった。

「見なくても想像つくよ、鷲見さんのカード。でかいバースデーケーキの絵にクマかなんかがパステルカラーでくっついてんだろ?もう一つはギフトボックスの絵で同じような感じか?それともバラの花束か?」

「…なんで…」

「他のデザイナーが必死でコンセプト考えて、デザインして、プレゼン資料作ってる間に、鷲見さんがやってんのは目白さんに媚びるだけなんだよ。デザインがアップデートされるわけないだろ?そんなもんずっと売り続けても、得するのなんて鷲見さんだけだろ。こんなこと続けてたらマジでピーコック潰れるぞ。」

周は苛立ちを隠さずに言った。

「で?」

「え…」

「鴇田はどれが良いと思った?あるだろ?自分の意見だって。」

「……正直言ったら、黄色い花の…福士さんのが一番だと思います…」

「だろ?」

「でもダメです。順番入れ替えて明石さんが進行役なんて不公平です。」

「いや、むしろ公平だろ。」

周は言った。

「は?」

「進行役って投票権ないよな?」

「え?ああ、はい。」

「俺、普通にしてたら福士さんに10点入れて、他全員0点にするよ。それに比べたら福士さん含めて得点ゼロのほうが平等で公平だろ?」

周は当たり前のように言った。

「も〜なんなんですか…マジで。」

「いいじゃん、バースデーカードのコンペの一回や二回、部長だって俺がいつも通り生意気だったくらいにしか思わねーって。鷲見さんだってほっといてもそこそこ点入るだろ。」

鴇田は渋々進行役の交代に同意した。

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