第22話 バースデーカード

「じゃあね〜!香魚ちゃん、明石くん、またねー!」

「じゃあまたな。」

「うん、おつかれ。めぐさんはつむぎちゃんにもよろしく。」

「おつかれさまです。とっても楽しかったです。また。」

顔合わせでひとしきり冷やかされ、香魚子とあまねは帰路についた。駅に向かう柏木たちが見えなくなると二人は手をつないだ。香魚子は土日を周の家で過ごすことが増えていて、この日も周の家に向かった。

「めぐさん、すっごく明るくて楽しかったです!周さんも柏木さんもみんな明るいから、楽しい会社になりそうですね。」

「めぐさんはちょっと明るさのレベルが違うけどな。ちなみに前に表参道で一緒にいたのがめぐさん。」

「あ、半分仕事って…」

「そういうこと。」

香魚子は歩きながら周の顔を見上げた。

「顔に何かついてる?」

視線に気づいた周が言った。

「いえ、あの…カード…」

「カード?」

「ミモザのバースデーカード、ほかに何か言いたいことがあったんじゃないですか?」

香魚子の指摘に、周は少し逡巡した。

「………うーん…」

「…本当はイマイチでしたか?」

香魚子が恐る恐る聞くと、周は首を振った。

「めちゃくちゃ良い。今までで一番てのも本当に本当。」

「じゃあ…?」

「…呆れないって約束してくれるなら言う。」

「よくわかんないけど、呆れないです。約束。」

香魚子は笑顔で指切りの指を出して、周と指切りをした。

「はい!どうぞ。」

「…俺だけが一番に見たかった。」

周は小さく呟いた。

「え…」

「呆れてる。」

香魚子は首を振った。

(…可愛すぎるんですけど…)

「私も、周さんにだけ最初に見せたいって思いました。でも会社名のことも聞けてすごく嬉しかったです。あのメモ、とってあったんですね。」

「うん。あの話聞いたときから会社名にミモザは入れたいって思ってたから。」

「そんなに前から。」

「あの頃からデザイナーは香魚子がいいなって思ってたんだよ。なのに断られたから焦った。」

香魚子はバツが悪そうに苦笑いした。

「じつは、私も持ってるものがあるんです…」

香魚子は手帳を取り出し、そこから紙を取り出した。周が書いた10点満点のコンペの投票用紙だった。

「ここに書かれた言葉にすごく励ましてもらいました。お守りがわりです。」

香魚子はにこっと笑った。

周は香魚子の頭を撫でてから抱きしめた。

「周さ…」

「かわいいなって思って。」


翌 日曜日

「香魚子、この前バースデーカードのコンペがどうとか言ってなかった?」

朝のコーヒーを飲みながら周が言った。

「はい、今度バースデーカードの社内コンペがあります。でもコンペは…もういいかなって…」

鷲見と目白の顔が頭をぎる。

「コンペの締め切りっていつ?」

「次の木曜です…けど…?」

周は少し考える素振りを見せた。

「ミモザのカード、コンペに出さない?」

「え…でもあれは…周さんの…」

「香魚子だってコンペのことが少しは頭にあったから、バースデーカードのデザインにしたんじゃないの?」

たしかに周の言う通りだった。

「でも…」

ピーコックラボのコンペに出してしまえば、ピーコックラボの業務内のデザインと見做みなされて、たとえ不採用になっても恐らくミモザカンパニーからの発売はできない。

「もちろん俺だってミモザカンパニー自分の会社から発売したいよ。でも悔しいけど、最初のうちはそんなに凝った…つまり…金をかけたバースデーカードとかは発売できないと思う。あれは金箔があって、ラメも入ってたほうが絶対生きるデザインでしょ。」

香魚子は黙って周の言葉を聞いている。

「だからあれは、ピーコックから発売させたい。あのカードは発売さえできれば絶対に売れるから、香魚子がデザインの仕事していく上での箔にもなるよ。」

「でも…その“発売”がピーコックのコンペではすごく難しい…ですよね…」

それは周自身が香魚子に言っていたことだ。

「前から考えてたことがあるから、それを試したい。俺は会社辞めるけど、ピーコックが目を覚ましてくれるならそれはそれで嬉しいし。」

「周さんがそう言うなら…。」

残念な気持ちがないわけではないが、周のために作ったデザインということもあり、香魚子は周の考えに従うことにした。

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