第6話 らしくない
プライベートショーの設営日
香魚子をはじめ、企画デザイン部は全員が会場の設営をしている。その他に営業部からも何人か応援として参加していた。
昨日、部長から聞いた営業部から応援に来てくれるメンバーの中に明石の名前はなかった———のだが、
「福士さん、これはこっちでいい?」
「え!?あ、はい、えっと、その箱の中身はこの台の上に乗せるので…」
「じゃあこの辺に置いとくね。」
明石が設営を手伝っている。
(なんで明石さんがいるの???服装もなんかいつもと違くない?)
普段はスーツ姿の明石だが、今日はパーカーにズボンのカジュアルな服装だ。明石の噂をしていた女子たちもざわついている。
「なんか俺にできることある?」
「は、はい…えっと、そこの箱に
「オッケー。」
「あ、組み立て方わかりますか?」
「うん。俺こういうの得意。」
明石が得意げに笑った。
(…服装も相まってなんか今日の明石さんかわいい…)
「あれ?これ部品足りないね。」
「あ!それはたしかこの箱に…はい、これ。」
香魚子は足りない部品を手渡した。
「ありがと。」
「あの…明石さんは設営のメンバーじゃなかったはずでは…」
「ああ、うん。日帰り出張の予定だったんだけど、昨日急にキャンセルになってさ。内勤にしようと思ったんだけど、こっちも人手が足りないって言うから。」
「そうだったんですか。内勤だから服装もなんかいつもと違うんですね。」
「そうそう。こんな
明石は笑った。
「このノートって福士さんのデザイン?」
香魚子は一瞬ギクッとした。
明石が箱から取り出したのは、
「……はい、一応…。」
香魚子は明石にはなんとなく見られたくなかった、と思った。
「よくわかりましたね、私のだって。他の方には鷲見チーフのデザインだと思われたりするんですけど…」
「うーん…たしかに鷲見さんぽいけど、色づかいが福士さんて感じかな。あとは細かいところが。」
「色づかい?」
ノートの色づかいは最も“ピーコックらしさ”を意識したはずだった。普段はあまり使わない甘いパステルカラーにしている。
「鷲見さんの色づかいって、いつも余計な色が入ってる気がするんだよね。整合性が無いっていうのかな…。」
明石が小声で言った。
「このノートは色がきれいだから、なんか福士さんのデザインてわかった。」
(……そんなふうに商品見てるんだ。この人すごい…。)
「でも全然福士さんらしくはないよね。なんでこういうデザインにしようと思ったの?」
「………。」
明石の質問は鋭い。
「…私のデザインて、この会社に合ってないのか…その、全然選ばれなくて。商品化されても、鷲見チーフとか他のベテランの方の商品みたいにはお店で見かけないので…。今回はちゃんとこの会社らしさを意識したものを作ってみようと思ったんです…。」
「なるほどね。うん、狙い通りにはできてると思う。プロだね。」
「……ありがとうございます…。」
そう明石には褒められたが、香魚子の中にはなんとなく罪悪感のようなモヤモヤした気持ちが芽生えていた。
「福士さん的には納得いってないんだ?」
「…そういうわけでは…」
「……ふーん。」
明石は香魚子の表情をうかがい、なにかを考えているようだった。
「おっと、喋りすぎたな。続きやろうか。」
香魚子と明石は設営作業に戻った。
黙々と作業を続けていると、ふと同僚の言葉を思い出した。
『女と二人で歩いてたらしいよ。』
(…彼女、いるんだよね。)
「…明石さんがデザインに詳しいのって、彼女さんの影響ですか…?」
「え?」
香魚子の急な質問に明石は驚いたような
「俺、彼女いないよ。」
「え!?わ、えっと……そうなんですか…?この前 表参道で女性と歩いてたって、女子が噂してたので…変な質問しちゃった…」
「表参道…ああ、あの日か。別に彼女とかではないよ。半分仕事。」
(半分…?)
「どこで見られてるかわかんないな。
明石は苦笑いした。
(…そっか彼女いないんだ…。)
「福士さんさ、今日会社戻るの?」
「いえ、直帰して良いことになってます。」
「時間あったら
「え!?ご飯、ですか?」
突然の誘いだった。
「ダメ?」
「い、いえ、大丈夫です!超ヒマです!」
香魚子がテンパっているのがおかしいのか、明石は笑った。
「誰かに見られるとちょっと面倒だから、店で待ち合わせでもいい?LIME教えてもらえる?」
「はい!えっと……」
(明石さんとご飯…明石さんのLIME…!会わせたい人って誰??)
香魚子の頭の中は処理しきれない情報でいっぱいだった。
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