第14話「炎の中へ」

「異能力『透過ゴースト』発動!」


 力強く言って、女莉は炎の中へと飛び込んでいく。


 既に全身が炎の中に入ったが、女莉の身体に損傷も火傷もない。


「本当にすり抜けているのか……!?」


 異能力と言っていたが、まさか本当にそうだったとは。


 半分くらい「この子厨二病なんだなー」って思っていたのに。

 俺以外に能力者がいたなんて。俺だけ特別だと思っていたからちょっとショックだぜ。


「って今はショックを受けている場合じゃないだろ!」


 自身を鼓舞こぶし、再び思考を巡らせる。


 女莉は俺に「避難しろ」と言っていたが、本当に放っておくわけにもいかないだろう。


 炎のダメージはすり抜けられているようだが、多分、熱による痛みは感じているのだ。


 炎の中に手を伸ばしたとき、「熱い」と言っていたのがその証拠。


 そんな苦痛の中に女の子一人だけで向かわせるわけにはいかない。


 ――それに、お前はこれを「異能力者わたしの領分だ」とかなんとか言っていたが――


「異能力者なのは、お前だけじゃないんだよ!」


 俺は自身に『熱耐性』、制服に『熱防護性』を付与。炎の中に腕を伸ばす。


「――ッ! 熱いし、痛てぇ……が。

このくらい、大した痛みじゃない!」


 自身のステータスを開き、HPの欄を見る。


「よし、あんまりダメージを食らってないな」


 女莉のようにダメージを完全無効化できるようになるわけじゃないが、気にするほどのダメージでもない。


 もしHPが少なくなってきても、改変リライトしてHPを全回復すればいい。


 もし『火傷』を負っても、改変リライトで『火傷』を消せばいい。


「つまり何も問題はない……行くぞ!」


 意を決して、俺は炎の中へと走り出す。


「先輩!? どうして着いて来たんですか!

それに、炎の中なのにどうして無事で……」


「異能力者なのはお前だけじゃない。俺も異能力者なんだよ!」


 俺がそう言うと、女莉は目を丸くする。


「先輩も異能力者だったなんて……そんな偶然……」


「考えるのはあとにしてくれ! とにかく今は調理実習室だ!」


 言って、俺は調理実習室の扉を開ける。


 炎の海の発生源。そこはやはり、廊下と比べ物にならないほどの炎で充満していた。


「お兄ちゃん……!」


 部屋の隅に、奏恋の姿が見える。

 どうやら友達と一緒のようだ。


 今のところ、火傷などを負っているようには見えない。


「良かった……!」


 奏恋は無事。

 俺はその事実に胸を撫で下ろす。


「先輩、安心するのはもう少しだけ先にしてください」


 女莉に言われ、俺は気を切り替える。


 そしてようやく、俺は目の前の人物。この事件の元凶の姿を目視した。


「恐らく、彼がこの火災事件を引き起こした異能力者です」


 目の前の存在――至る所が炎によって包まれている男子高校生は、自身の頭を掻きむしりながらその場所に突っ立っている。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。

……僕の力が、勝手に発動しちゃって……ごめんなさい!」


 小声で色々喋っているのは、謝罪の言葉だろうか。彼は何遍も「ごめんなさい」と繰り返している。


 つまりこの火災は彼の意図で引き起こされたわけではないのだ。恐らく原因は、異能力の暴走――。


 であれば説得して異能力を止めてもらうのは通用しないだろう。ならば、他の手段は?


「彼には悪いですが、気絶させましょう。

私なら炎に焼かれず攻撃できます!」


「それはダメだ!

攻撃するってことはつまり、自分の透過を解くってことだろ? その瞬間に炎で焼かれるかもしれない」


「でもほんの一瞬ですし……」


「一瞬で、一発で気絶させることができるのか?」


「そ、それは……」


 俺に言われ、女莉は黙る。


 その直後、


「ごめんなさいごめんなさい! 避けてください……!」


「――ッ!」


 迫り来る炎をサイドステップで避ける。


 だが、攻撃はそれだけで終わらない。


 再び放たれる炎の塊。

 やばい、回避直後の俺にこの攻撃は避けられない――!


「先輩!」


 女莉の手が俺に伸ばされる。その刹那、


 ――ボオオオオオオッ!!


 炎の塊が俺の身体を貫いた。


「……ってあれ?」


 全くダメージを負っていない。

 自身のHP欄を確認してみてもやはり、HPが減っているわけじゃない。


 と、いうことはまさか。


「女莉の能力は、触れたものも透過させることができるのか」


 考えてみれば、確かにそうだ。


 自分の身体だけ透過しているのだとしたら、燃え盛る炎に飛び込んだ時点で制服は燃えてしまう。


 燃えていないということは、つまり、触れている物も透過できるということなのだろう。


 …………制服、燃えて欲しかったなぁ。


「悪い。助かった!」


「気にしないでください」


 俺は女莉に触れられている間にステータスを閲覧。なにか有用なスキルがないか探る。


――――――――――――――――――――――――

桜木女莉 16歳

HP 80/80

MP 108/120


【異能力】

透過ゴースト


【スキル】

『読書家』『美肌』『魅了』『小悪魔』『ファッションセンス★★』

――――――――――――――――――――――――


 ザ・モデルといったスキル。長距離で戦えるスキルがあればとも思ったが、そう都合よく事が進まないか。


「いや、待てよ」


 俺はスキル欄に注目するのを辞め、その上、異能力の所に注目する。


 わざわざステータス欄に表示されている、ということはつまり。


「これも書き換えることができたりするのか?」

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