第13話「非日常の始まり」
――ジリリリリリリッ!
俺の鼓膜に、けたたましいサイレンの音が響く。
「うっさ……」
俺は耳を塞ぎながら憎々しげに呟く。
この音、火災警報器の音だよな?
「まさか、避難訓練?」
いや、違うだろう。俺は毎日真面目に学校に通っているけど、今日避難訓練があるんだなんて聞いたことがない。
「ならまた誰かがイタズラで押したのか?」
俺の頭に浮かぶのは、去年の十月の出来事。
確かあのときは火事かと思って焦ったけど、結局火事じゃありませんでしたって結末だったな。
じゃあ今回も焦る必要なんかないんじゃないか?
でも万が一本当の火事だったとき困るし、どうするべきか……。
俺が色々考えていると。
「……ん?」
ポケットからスマホの振動を感じ、俺はスマホを取り出す。
どうやら妹からの着信のようだ。
俺は『許可』のところをタップして電話に出る。
「おい奏恋どうした――」
「お兄ちゃん! やばい!」
緊迫した奏恋の声が俺の鼓膜を震わす。
明らかにいつもと違う、タダ事ではない声色。
それを察知した俺は顔を引き締め、静かな口調で奏恋に訊ねる。
「どうした。なにがあった」
「調理実習室が燃えてる!」
「…………はあ!?」
燃えたということは、ガチで火事が起きたってことか!?
どうしてそんなことに。
カズコンロに異常でもあったのか?
いや、それ以上に俺が奏恋に訊ねなきゃならないことは――。
「まさかお前、今調理実習室にいるのか……?」
「うん……」
やっぱりそうだ。
いち早く火事に気付いたこと。加えて奏恋の今日の4時間目が家庭科だと言っていたこと。
そこから思考をすれば考えられないことじゃない。
恐らく家庭科で調理実習か何かをしていたのだろう。
昼休みが終わるまで調理実習室にいたということは、調理実習室で作った飯を食べていたのか?
あるいは後片付けで調理実習室に戻ってきたか。
どちらでもいい。今一番大事なのは俺の妹が燃えている調理実習室の中にいるということ。
「逃げられるか!?」
「扉燃えてて無理! 窓の方も!」
「…………マジか」
出入り口が完全に塞がれている。
ガチの火事ならすぐに消防車が来るだろうが……。
「……待ってろ! 今そっちに向かう! 電話は切るな!」
俺は通話状態のスマホをポケットに戻し、急いで階段を降りていく。
「先輩! 私も着いて行きます!」
「あそこは危険だ。お前は急いで避難しろ!」
「私なら絶対に先輩の力になれます! それにこの火事は――」
女莉は続ける。
「ごくまさんの未来視通りなら、多分普通じゃありません」
「普通じゃない?」
一体女莉は何を言っているんだ?
「今は色々教えている暇がありません!
とにかく私を信じてください!」
「……わかった! 絶対怪我や
自信満々な態度で言われ、俺は女莉に着いてくるよう言ってしまう。
彼女がなんのことを言っているのかさっぱりだが、確かに今色々考えたり
信じる他に道はない。
俺は決意を固め、階段を下り終える。
「おいおい……」
直後、俺の目に映った景色を見て戦慄する。
調理実習室がある一階。そこはまさに『火の海』という形容が
一面どこを見ても赤、赤、赤。
俺が今まで見てきた日常の景色とはまるで違う。強制的に死を連想させる――非日常の世界。
しかし、だからと言って俺が足を止める理由にはならない。
俺が今感じている以上の恐怖を奏恋は感じているんだ。
兄である俺が足を
「――結局、炎は炎だ」
炎なんて、酸素がなければ燃えられない。
故に、消化器の液体炭酸ガスで酸素を取り込めないようにすれば炎は消える。
そう思ってぶっぱなした消化器だが、しかし。
「嘘だろ?」
まるで消えない。まるで効果がない。
物理法則がなんだと言わんばかりに、炎は変わらず燃え盛っている。
「なんなんだよこの炎……!」
見れば、この炎、消化器で消えないだけじゃなく、燃え広がることすらしていない。
――普通の炎とは、まるで違う。
「やっぱり、異能力の創造物……」
不意に、女莉が呟く。
「今、なんて言った?」
「先輩は気にしないでください。
きっとこれは、
呟いて、女莉の炎の中に手を伸ばす。
「おい、そんなことをしたら――!」
俺は女莉の手が炎で燃やされてしまう未来を幻視する。
だがその幻とは裏腹、炎の中の女莉の手は燃えていない。
一切の火傷も、手が
「熱いっ! ……けど、我慢できないほどじゃない。
炎によるダメージも、わたしの能力なら
覚悟を決めるかのように、女莉は言う。
「先輩は避難しててください!」
「待て、お前はどうするつもりだ!?」
「先輩の妹さん達を助けます!
異能力――『
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