第12話「桜木女莉」
「むしろ、魅力的なんじゃないか?」
「ふえ?」
俺が思ったことを口に出すと、彼女は「何言ってんだこいつ」という目で俺を見る。
「悪い、言葉が足りなかった。
要はお前、自分の完璧なんとかキャラがラノベなんか読んでいればイメージダウンだって考えてるんだろ?」
「そ、そうですね。だってこんな趣味、明らかに私のキャラと合わないし……」
「明らかに合わないからこそ、ギャップ的なのができてさらに魅力的なキャラクター性になると、俺は思ったけど」
これは俺が完璧な人間が苦手な
完璧な人間というのは確かに魅力的だが、同時に、俺みたいな中途半端な人間にとっては自身の欠点を浮き彫りにする不快な存在。
――あの娘と比べてどうして私は。
――なんでアイツばっかり……。
そういった嫉妬の対象や逆恨みの感情を抱かせることも珍しくなく。
だから完璧なキャラクター性であるよりは、多少の欠点と人間味を持っていた方が好感は持たれやすいと思ったけど。
そう思っての俺の意見は、しかし、
「…………で、でも……」
目の前の彼女にとってはすんなり受け入れ難いもののようだ。
ま、そりゃそうだろうな。
自身の仮面を剥がし、本当の自分をさらけ出すには勇気がいる。
今日あったばかりの人間に出せと言われて出せるほど、簡単なことじゃない。
だけど俺が
だから彼女にほんの少しでも勇気を与えられるよう、俺は言う。
「少なくとも俺は、自分の趣味に没頭しているお前のことを綺麗だと思ったぞ」
「きっ、綺麗……!?」
何故か顔を赤らめ、本で顔を隠してしまう彼女。
やべ、なんか気に障ることを言ってしまっただろうか。
流石に素人が他人のビジネス観に言葉を挟むのはアレだったか。
「い、色々言ったけど結局どんな感じに仕事していくのか決めるのはお前自身だ。俺の言ったことは気にせず全部忘れてしまってもかまわないぞ」
俺が取り繕うようにそう言うと、彼女は本で顔を隠したまま首を振る。
「忘れません。絶対に忘れませんから……」
「え、ええ……」
絶対に忘れらないほど怒らせてしまったのか。
一応『コミュ強』のスキルを取ったのはいえ、根本的なところはコミュ障なのかな。
言葉で相手を不快にさせてしまった。
有名なモデルの女の子を敵に回して、俺は今後の学校生活を平和に送れるだろうか。
うーん無理なビジョンしか見えない。
せめて屋上で昼ご飯を食べるときくらいは平和であってほしいけど。
「隣、いいですよ」
「え? ああ、ありがとう」
隣を勧められ、俺は彼女の横に座る。
わざわざ隣に座らせてくれるってことは彼女、実はそれほど怒っていないのかもしれない。
俺はその事実に安堵しながら、袋からコンビニ弁当を取り出す。
「……名前はなんと言うんです?」
「俺か? 俺は隠橋空真」
「じゃあこれから先輩って呼びますね」
「……この流れで名前呼ばないことってある?」
ツッコむと、彼女は嬉しそうに笑う。
こいつ……俺にツッコませて楽しんでやがる。
「私の名前は
これからよろしくお願いしますね、先輩」
「おうよろしく」
その後、俺達は昼休みが終わるチャイムが鳴るまで会話を続けた。
読書という共通の趣味があった
女莉は俺と同学年の人達と違い、昔の俺を知らない。
昔の姿と今の姿のギャップに囚われず会話できる分、自然体で話せるので気が楽だった。
俺は今の今まで自分のことを、一人が好き、他人嫌いだと考えていたけど、それは気が合う友人がいなかっただけなのかもしれないな。
チャイムが鳴った後、いきなり女莉からこんなことを言われる。
「これからもお昼、ここに食べに来ていいですか?」
「もちろんいいぞ。俺もお前と話せて楽しかったからな」
当然俺は二つ返事でOK。
この高校に初めて、俺の友達ができた瞬間だった。
でも友達というには、なにかが欠けているような……。
「そうだ、LINE。LINE交換しようぜ」
「ら、LINEですか!?」
俺が提案すると、女莉は何故か慌てだすような仕草を見せる。
「あ、案外グイグイ来るんですね先輩……。ま、まあ? 悪い気はしませんけどね!」
「? 友達なんだし、LINEを交換するくらい普通だろ」
「あ、そういう……。友達ってことね……」
かと思えばすぐにちょっと失望したかのような表情。
あれ、もしかして友達だと思われてない?
友達だと思っていたのは、俺だけ?
「たしかに、今日出会ったばかりなのにLINE交換はやり過ぎだよな……悪い、さっきのことは忘れてくれ」
「いや、しましょうLINE交換! いつでもウェルカムです!」
「そ、そう?」
急にやる気になった女莉の熱意に押され、俺達はLINEの連絡先を交換する。
「おお……」
LINEのトークの欄に追加されたアカウントを見て、俺は感嘆を漏らす。
俺、妹以外のLINEの友達作っちゃった……!
「それじゃ俺はそろそろ教室に戻る」
内心の興奮を悟られないよう、俺は平静を保ちながら言う。
「私も戻りますかね。それじゃあ先輩、また明日」
「ああ、また」
互いに手を振り合い、俺達が別れようとした――その直後。
――ジリリリリリリッ!
俺の鼓膜に、けたたましいサイレンの音が響く。
「うっさ……」
俺は耳を塞ぎながら憎々しげに呟く。
この音、火災警報器の音?
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