第11話「屋上にて」
4時間目が終わるチャイムが鳴り、俺は大きく伸びをする。
「やっと昼か……」
ずっと他人にジロジロ見られていたせいか、時間が長く感じた。普段は本を読んでればいつのまにか昼になるんだけど……、本に集中できないってかなり辛いんだな。
「ねえねえ空真君! よかったら昼一緒に食べない?」
気付けば、俺の机の前には朝の女子。
草森アンナとか、そういう名前の人。
「悪い。昼は一人で食べたいんだ」
言って俺はコンビニ弁当を持ち、そそくさと席を立つ。
「そ、そんなこと言わずにさ! 一人で食べるより二人で食べた方が楽しいでしょ?」
「そうか? 俺はそう思わないけど」
一人で食べる方が自分のペースで食べれていいと思うけどな。
少なくとも、前まで俺を豚だと罵っていたやつと食べるよりは何倍もマシだと思う。
「ま、待って!」
俺は彼女の言葉を無視して、教室から出ていった。
「はあ……」
なんだか少し気分が悪い。
俺を散々罵ってきた奴らの掌返し。
嫉妬と羨望の不快な視線。
俺の思い描いていた未来とはまるで違う。
「本の主人公のような生活を送れると期待していたのに」
結局、現実と虚構は違う。
フィクションの世界は綺麗でも、現実は薄汚いのが常ということか。
扉を空け、屋上へ繋がる階段を昇る。
いつもは誰もいないはずの空間。
だが今日は、いつもと違って先客の姿があった。
「………………」
彼女は俺の様子に気付く素振りを見せず、黙々と本を読んでいる。
パッと見茶髪のように見えるけど、金色ってことはどこかの国とのハーフなのだろうか。
見ればどこか西洋人っぽい顔つきをしている。肌も白いし、率直に綺麗だと思える。
「……あ」
不意に、彼女と目が合う。
やばい。ジロジロ見ていたことがバレたか。
別に邪な気持ちを持って見ていたわけじゃないけど、見られるだけの不快さを今日俺は味わったからな。
ここは素直に謝っておこう。
俺が頭を下げようとした、次の瞬間。
「み、見ましたね!? 私の本を!」
「ああ、すま……え? 本?」
本だと?
別に本には微塵も注意を払っていないし、それが見られたところでなんだって気がするけど。
だが、彼女の様子を見る感じ、本を見られたことはタダ事ではないようだ。
「あーもう最悪だ! 誰にもバレずに一人で読める場所なんかないかなーって色々探し回ったけどトイレくらいしか読む場所なくて渋々立ち入り禁止の屋上で本を読んでいたのにー! どうして立ち入り禁止なのにどうして人が入って来ちゃうかな!? まあ、それを言ったら私もだろってなっちゃうだけど。やばいやばいアレを読んでいることがバレたらモデルとしてのブランドが下がっちゃう。あばばば……」
などど長文台詞を早口で呟きながら、赤面で両目をぐるぐるさせている。
「ええっと……?」
イマイチ状況が呑み込めていない俺は、急にあばばばしだした彼女の様子に困惑する。
彼女の長文台詞を聞く感じ、彼女はなんかのモデルだったりするようだが……。
「そういえば、風の噂で聞いたことあるな」
今年の一年生に、有名なモデルの女の子が入学したって噂。
制服のリボンを見れば一年生を表す赤いリボンを付けているし、この子がその噂の子なのだろうか。
言われてみればこの綺麗さ。確かにモデルっぽい。
でもそれが、どうして本を見られて焦ることに繋がる?
……うーん、わからん。
ま、いいや。とりあえず本の表紙は見てないことを伝えれば彼女の様子も落ち着くだろ。
「ジロジロお前のことを見ていたのは謝る。だけど、俺は本の表紙を見ていないから安心していいぞ」
俺が言った瞬間、彼女は
「ほ、本当ですか!?」
「ほんとだって」
「本当のほんとに? 脳の片隅に微塵も記憶が残っていないと約束できますか!?」
「えーと……」
俺は頭の片隅まで記憶を探る。
そういえば彼女を見ていたとき、チラッと表紙が見えた気がする。なんか結構カラフルな表紙をしていたな。だけどマンガにしては小さめのサイズ。
……まさか。
「ラノベか?」
「あーほら見てるじゃないですか! やっぱり!!」
割と勘で答えたのだが、どうやら当たっていたようだ。
『超速思考』のスキルと日曜日に習得した『記憶術★★★』のスキルが裏目に出てしまった。
「最悪だ最悪だ。私、文武両道・完璧清楚キャラで売ってるのにそんな人物がラノベなんて読んでいたことがバレたらバッシングだ! 炎上だ!」
「……ああ」
つまりモデルの仕事で売っているキャラクター性がラノベによって損なわれているから焦っている、と。
でも俺の個人的な意見を言わせて貰えばそうとは思えないな。むしろ、
「むしろ、魅力的なんじゃないか?」
「ふえ?」
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