第10話「悪性」
休日の時間が過ぎるのは早いもので。
喫茶店『ヴェルダンディ』に行ったり『
「月曜かあ……」
月曜日に憂鬱にならない高校生はいないだろう。
特に俺の場合は学校に友達とかいないし、行ったところで退屈なんだよなあ……。
どうせ行ったって先生に隠れて本を読んでるだけ。
授業とか全く聞いていないのに、行く意味あるのか?
「……まあ、行かなきゃ親父に生活金止められるかもだし」
行くしか、ないんだろうな……。
俺は制服に着替え、家を出る。
ちなみに俺は、両親と別の場所に住んでいる。
県外の高校に進学するついでに、今はもう死去した祖父の家を貰ったのだ。
その経緯もあって俺が住んでいる家は若干古風だけど……、そのことについて、俺は別段気にしていない。
むしろ不仲の両親と別居することができて快適なくらいだ。ま、その際何故か妹までついてきたんだけど。
「それにしても……」
なんだか、さっきから妙に視線を感じる。
「あの人、転校生かな……?」
「すごい美形! それに肌も綺麗だし……」
「なんかのモデルか?」
「でも、あんなモデルさん見たことないよ!」
俺はただただ普通に通学しているだけなんだが。
俺の格好なんか変だったりするか?
そう思って自身の身体を見回してみたが……、うん、別に変なところとかないよな。
だとしたら、俺の自意識過剰かな?
なら気にせず、普通に通学していればいいだろう。
そうして歩くこと数分。
とうとう俺は教室に着いてしまった。
「はあ……」
憂鬱だ。
でもまあ、ここまで来ちゃったんだし、本でも読んでやり過ごすしかないか。
俺は自分の席に座り、持ち歩いている本を開く。
「ねぇねぇあの人誰?」
「もしかして転校生かな!?」
「なんでデブの席に座ってんだ。アイツ」
「というかチョーイケメンじゃない?」
「私、話しかけてみよっかな!?」
やっぱり感じるよなあ……。視線。
それにクラスの雰囲気もなんだかいつもより違うし……。これじゃ読書にも集中できやしない。
「あ、あの! そこのキミ!」
「ん?」
話しかけられて俺は視線を上げる。
そこには、茶髪ポニーテールの女子。
この顔、なんか見覚えあるな。
確かこのクラスの――2年2組のクラスメイトだっけ。名前は草壁アンナさんだったか。
「俺になんか用?」
「キミ、見ない顔だね。もしかして転校生?」
「は? 転校生もなにも、俺は
「え?」
俺の一言に、クラス中がざわめき出す。
ええ……なんでざわめいてんだこいつら。
俺、なんか変なこと言っちゃいました?
「ま、またまたー。冗談やめてよー!
キミみたいな人があのデブと同一人物なわけないでしょー?」
「冗談もなにも。ほら、身分証明書」
俺がポケットから身分証明書を取り出すと、途端に彼女の顔が青ざめていく。
「う、うそ……まさか、本当に、あの空真君なの!?」
「だからそうだって」
「あの豚みたいな体型が、どうしてこんなイケメンに……」
「それはその……、そう、ダイエットしたんだよ! ダイエット」
「土日の二日間でこんなに痩せたの!?」
なんて会話をしている内に、ホームルームの始まるチャイムが鳴る。
ああクソ。俺の貴重な読書の時間が奪われた。
昨日買った本、読むの楽しみにしてたんだけど。
「まあ、休み時間にでも読めばいいか」
――なんて俺の考えは甘かったようで。
「おいクソデブ。てめぇ痩せたからって調子乗ってんじゃねえぞ」
一時限目が終わるやいなや、俺は数人の男子に囲まれる。
こいつらの顔を、俺が忘れるわけがない。
俺が反抗しないことをいいことに、いつもパシりや暴行を行ってきた男子グループ。
そのリーダー格である存在――宮下タクミが俺の胸倉を掴んでこう告げる。
「ちょっとツラ貸せよ。俺達と一緒に体育館裏に行こうぜ」
睨みつけるように俺の目を射抜く宮下の視線。そこから怒りと加虐的な感情が見て取れる。
これから宮下が俺に暴行を加えようとしていることが容易に理解できた。
いつもなら宮下にこう言われた時点で、俺は断ることができず体育館裏に連行される。
だが、今回は違う。
「は? 嫌だけど」
「…………あぁ? てめぇ今何言った?」
「だから、めんどくせえから嫌だって言ったんだよ」
二度繰り返された言葉を聞いて、宮下は目を丸くする。
まさか拒否されると思っていなかったのだろう。
プツン、と、宮下の怒りが沸騰していくのがわかる。
「てめぇ……マジで調子乗ってるようだなぁ……! これ以上俺に反抗したら今すぐにでも――」
「今すぐにでも、なんだ? やってみろよ」
「てめえッ!」
少し挑発的な言葉を返すと、宮下の怒りは限界に達したのか、右ストレートが飛んでくる。
いつも避けることができず、何度も何度も俺の身体を痛めつけてきた右拳。恐怖と痛みの象徴だった宮下のパンチ。
だが『身体強化』のスキルを得た今の俺から言わせてもらえば、その拳はあまりにも遅過ぎる。
――今までこんなものにビビっていたのか。
パシッ。
俺は宮下のパンチを容易に掴み、拳を握り潰すように力を入れる。
メキメキ、と、宮下の拳の骨が軋む音がする。
「ぐ、がッ! て、てめえ、一体なんのつもりだ!」
それでもこのうるさいやつは黙らないので、その際宮下のステータスを開く。
――――――――――――――――――――――――
宮下タクミ 16歳
HP97/100
状態異常:怒り
【異能力】
【スキル】
『威圧』『脅迫』『筋肉質』『加虐趣味』『カナズチ』
――――――――――――――――――――――――
色々書いてあるが、俺が目をつけたのは状態異常のところ。
この『怒り』というところを『恐怖』に変えてやれば、このうるさい雑魚も身の程を知ることだろう。
「『
俺が小声でボソッと呟いた後、宮下の顔がみるみる青ざめていく。
「な、い、いてぇ! やめろ……やめてくれ! やめてください! 痛いです! もう暴力とか振るいませんから!」
「へえ……」
さっきまで散々喚いていた威勢はどこへやら、いきなり宮下は命乞いを始める。
見れば宮下の全身が震え、ズボンにはシミができている。
どうやらこの『恐怖』とかいう状態異常、かなり即効性があるみたいだな。
「しかし……」
やめてくれ、か。今まで散々暴力をしてきたやつにしては随分と都合のいい言葉だ。
そんなやつには状態異常なんかじゃない、『本物の恐怖』を教えてやる必要があるな。
俺は握っていた拳を離し、少しの間宮下を開放する。
「あ、ありがとうございま――」
と、宮下が安心したのも束の間、
「ガハッ!」
俺は全力の右ストレートを宮下の腹に打ち込んでやった。
宮下が無様にその場に倒れ伏す。
そんな宮下の顔を掴んで、こう一言。
「お前なんかいつでも殺せる。覚えとけ」
「は、はい……」
宮下の顔から手を離し、他にいた奴らにも視線をやる。
「「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃ」」
すると奴らは逃げるように教室の外へ出ていった。
「……ざまあ見やがれ」
俺は内心でほくそ笑みながら、小声でボソッと呟いた。
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