第6話「スカッとする」

 耳を澄ませ、男と女の声がする位置を探る。


「やめて! 触らないでくださいっ!」

「うっひょっ~~~。ちっこい割に意外と乳はデケエんだな……」


「この声の方向……コンビニの裏か!?」


 会話を聞く感じ男の行動はヤバいラインまで来てしまっているな。


 俺は急いでコンビニの裏側へと駆け出す。


「やめろっ!」


 俺が考えていた通り、襲われていた女はコンビニの裏にいた。


 が、予想外だったのは男サイド。


「あぁ? なんだぁてめぇ――」

「兄貴のお楽しみの所を邪魔するとはいい度胸じゃねーか!」

「こっちめてやりましょうぜ! 兄貴!」


「襲っていた連中は三人いたのか……!」


 俺を奥歯をがりっと噛み締める。


 あんなにびくびくと震えている小柄の少女。


 それをいい歳した野郎が大人数で威圧して、セクハラ紛いのことを要求?


「ふざけんなっ!」


 俺は野郎共三人の所へと駆け出す。


「お前たちやっちまいな!」

「「あいあいさー!」」


 真っ先に俺の前に塞がるのは二人の男。

 明らかに「自分、手下です」って顔の奴らだ。


 兄貴分の男は動かない。俺程度、兄貴様が出るまでもないってか?


 ならばその考えをぶっ潰す。


「「オラァ!」」


 ほぼ同タイミングで繰り広げられる右ストレート・左ストレート。


 それは多くの喧嘩けいけんちを積んで来たことがわかるほど力強い攻撃だったがしかし――!


「遅せぇよ」


 今の俺にはスキル『身体強化』がある。


 いくら喧嘩けいけんちを積んでいようが所詮しょせんは素人の一撃。


 武道も拳技の術も学ばれていない攻撃は無駄が多く、ゆえに『身体強化』で身体の最適な動かし方がわかる俺には届かない。


 この程度の下っ端モブなんて、バックステップで攻撃を回避、カウンターの軽いチョップを顎にてば終わりだ。


「うっ!」

「ぐえっ!」


 その場に倒れ伏す男二人。

 その様子を見て、兄貴分の男は目を丸くした。


「て、てめぇー! よくも!」


 俺に向かって振るわれる拳。


 俺にあの男二人がやられることが意外だったのだろう。その攻撃には多少の動揺が見える。


 そんな感情任せの一撃ほど、受け流しやすいものはない。


「うお!」


 拳を掌でいなし、衝撃を明後日の方向へ流す。


 その接触ついでにステータス閲覧。


――――――――――――――――――――――――

拳出文武こぶしでふみたけ 21歳

HP 160/160


【スキル】

『タフネス』『拳闘術』『カリスマ』『嘘つき』『加虐趣味』

――――――――――――――――――――――――


 色々あるが――気になったのは二つ目のスキル。


「『拳闘術』……!」


 明らかな戦闘系スキル。その保有者が『身体強化』ありとはいえ素人相手に拳を受け流されるとは考えにくい。


 ということはさっきの攻撃は――!


「フェイントだよ!」


 放たれる二撃目。それを顔面スレスレの所でかわす。


「おうおう。案外やるじゃねえか」


「……あんたの方こそ」


 さっき見えた動揺の表情。あれも全部虚偽ブラフだったのか。


 見た目はゴリラだからゴリ押しだけかと思ってたけど、案外卑怯な真似を使ってきやがる。


 そんな卑怯性に加えて、『拳闘術』の鋭い攻撃。


 『身体強化』持ちの俺でもアイツと殴り合うのは厳しいだろう。ならば。


「喰らえ……っ!」


 俺は男に向かって拳を放つ。が、


「こんな弱っちいパンチ、避けるまでもねえぜ!」


 防御行動さえ行われず拳は受けられる。

 そして即座に放たれるカウンター。


 攻撃直後は防御が薄くなる。それは古来から伝わる戦闘のセオリー。


 故に男はカウンターの拳とともに、勝ちを確信した笑みを浮かべる。


「俺の勝ちだあ!」


「いいや。あんたの負けだよ」


「なに!?」


 俺は男の反撃を完璧にガードし、にやりと笑う。


 『攻撃直後は防御が薄くなる』

 それは素人でもわかる戦闘の論理。


 だがこの論理でいう『攻撃』とは、行動と意思、どちらも伴った攻撃のことだ。


 俺がさっき行った攻撃……『相手のカウンターを誘い、防御するための攻撃』は、攻撃意思が伴っていないためセオリーの例外となる。


 その為、男の攻撃を完璧に防御することなどなにも難しいことじゃない。


 そして男の攻撃を完璧にガードしたということは――即ち『接触』。それも攻撃直後、大きな隙を産む時間の接触だ。


 その隙があれば、『改変リライト』の異能で男の『拳闘術ぶき』を剥奪することくらい造作もない。


 この男から『拳闘術』を消せば、あとはちょっと痛みに耐性があるただの素人。


 このあとに繰り広げられるのは、一方的な蹂躙だけだろう。


「うぐっ!」


 顎を狙って右フック。

 脳を揺らす攻撃だが、あえて気絶はさせない。ほんのちょっと抵抗力を奪うだけ。


「ぼへっ!」


 みぞうちを狙って掌打。そして即座に股間を蹴る。


「やっ、やめっ……!」


 やめる? 今更なにを言っているんだ。

 先にやめなかったのはお前らの方だろ。

 俺の「やめろ」の言葉を聞かず、女をなぶり続けたのはお前らだろう。


「お、お願いしまっ――」


 だからやめない。

 女が味わってであろう恐怖を、数十倍にして教えてやる。


 パンチ。左フック。右蹴り。チョップ。左蹴り。掌打。手刀。突き――。


 全部素人知識の技だが、マンガで見た動きを活かして最大限に男を痛みつける。


 そうしてフィニッシュは顔面パンチ。


 といっても直で殴ったわけじゃない。男の顔の手前で止めてやり、そしてこう言うのだ。


「今後もこういうことを続けるならタダじゃおかない」


「は、はいっ……!」


 そう言い残して気絶する男。


「ふう……」


 イキってるやつを懲らしめるのって、スカッとするなあ……。

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