第2話「一日ダイエット」

「お兄ちゃんおかえりー」


「ただいま! 奏恋かれん!」


「ご飯にする? お風呂にする? それとも、ワ・タ――」


「すまん! 後で!」


 妹の茶番劇を断り、大忙しで自室へと急ぐ。


 やることはもちろん電車の中のあの異能の実験。


 電車の中では『寝不足』のスキル削除後、『コミュ障』のスキルを削除してみたが、その効果は絶大だった。


 いつもどこか不安感を感じて、人と話すときに強ばっていた声帯。


 その緊張感が嘘のように消えていたのだ。ここまでされれば、あの異能の効果は疑いようもないだろう。


 そして、


「あの異能の効果が本物だとすれば――」


 消せるはずだ。俺のこのデブな体質も――!


 バーンと勢いよく扉を開き、自室へと入る。


 電車の中だと急な体質変化は目立つからな。『デブ』の削除は家の中でやるしかなかった。


「それじゃ、始めるか……。ステータス・オープン!」


 その言葉と共に、俺の視界にステータスが現れる。


――――――――――――――――――――――――

隠橋空真 17歳

HP 90/90

MP 80/100


【異能力】

改変リライト


【スキル】

『デブ』

――――――――――――――――――――――――


 これは後から気付いたことだが、別にタップとかせずとも、念じただけでステータスを操作することができるようだ。


 つまりステータスの表示・非表示も、念じただけで可能である。


 え? じゃあなんでわざわざ「ステータス・オープン」って言ったのかって?


 そんなのカッコつけたいからに決まってんじゃん。


 年頃の男子はこういう特殊な力に憧れるもんだからな。


「そんでもって、『改変リライト』の異能を発動……」


 対象はもちろん『デブ』のスキル。


 これで豚だのデブスだの言われていた時代は終わりだぜ! ひゃっほいっ!


 俺は『改変リライト』を発動する!


「おっ……?」


 急に感じる身体が軽くなった感じ。

 俺はポケットからスマホを取り出し、内カメラで自分の身体を見る。


 いつもは自分の身体を見るのが嫌で、鏡もなるべく見ないようにしていたのだが……。


 そのスマホの画面の中には、誰が見ても恥ずかしくない男の姿が立っていた。


 いや、恥ずかしくないどころかこれは……。


「案外、男前の部類じゃないか?」


 自分で言うのもあれだが、画面に映る男は実際かなりのイケメンだった。


 元々目とか鼻とか、顔のパーツの位置は悪くない方だったのだ。デブだったから顔も膨らんでて分からなかったけど、すらっとすればこんなに整ってる物なのか……。


「だけどまだ問題があるな」


 今まではどうせデブだからと意識してなかった分、髪型や肌質がよくない。


 いくら顔が良くても髪が変で肌荒れを起こしていれば玉にきずだ。


 幸い今日金曜日。明日明後日が休日である以上、そのとき美容院で髪を整えて貰えばいいか。


 肌荒れの方は……うん、そんな酷いわけじゃない。食生活に気を使えばなんとかなる……のかな。


「んでもう一つの問題は」


 まだ身体がだらしない。一応デブでは無くなったが、筋肉質というわけでもない。


 太くとも細くともない、でも筋肉があるわけでもない微妙な感じだ。


「これは筋トレをして……いや待てよ」


 今の俺にはステータスを書き換える異能がある。


 わざわざ筋トレなんかしなくても、『改変リライト』の能力で筋肉質になるようなスキルを追加すればいいのでは。


「俺、天才か」


 思ったと同時、俺は『改変リライト』の異能発動を念じる。


 追加するスキルは……そうだな、『筋肉ムキムキ』とかいう名前でいいか。


「発動! えいっ!」


 瞬間、身体に感じる重み。

 スマホの内カメラで見てみると、そこには……


「Oh……beautiful」


 ボディビルダーみたいな美しい筋肉美がそこにあった。


 …………いやいや。確かに筋肉質になるように言ったけど。こんなに雄雄しい姿は望んでないよ? もっと加減して?


 俺は『筋肉ムキムキ』のムキムキの部分を『改変』で削除し、『筋肉質』になるよう編集する。


 すると俺の思っていた通りの、丁度いい感じの引き締まった身体を手に入れることができた。


「それにしても一日でダイエットに成功、いい身体になるなんて」


 これがこの異能の力か。半端ないな。


「って、あれ……?」


 目眩がする。

 それに、なんだか身体が、急にだるくなってきたぞ……?


 あ、そうか、異能の発動にエネルギー的なやつを消費した、せい、か……。


 瞬間、俺は意識を失った。

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