02話
「もしかして毎日ここにいるの?」
「毎日というわけじゃないけど平日のこの時間は大体ここで過ごしているかな」
「寂しい場所なのによくやるねー」
前もそうだったけどここら辺りにお家があるのかもしれなかった、だってそうでもなければ私を追っていない限り何回も来ることにはならないだろう。
「そうだ、七美が不安定な理由、久保さんは知っているかな?」
「分からない」
「そっかー、あの子ちゃんと言ってくれないから私達には動きようもないのが気になるところだよ」
意外だ、ここには大島さんがいるわけでもないのに、役に立てたわけでもないのにまだここにいてくれている。
ただ、話したいことがなくて黙っていると「久保さん」と呼ばれて意識を向けた、そうしたら頬にずびしと指先が刺さった。
「もしかしたら久保さんが相手なら七美も大人しく吐くかもしれないね」
「それよりも痛かった」
「はははっ、ごめんよ」
これまでのことというか学校のときのことを考えればこれでも続いた方だ、だからこれ以上を求めたりはしない。
完全に暗くなってしまう前にお気に入りの場所をあとにして自宅に向かって歩き出した、こうしてギリギリを狙っていくことで克服をしたいという狙いもある。
母も別に十八時ぐらいに帰宅しても特になにかを言ってこないのも影響していて、なんとか卒業までには、うん。
「
「荷物? お母さんがなにか買ってくれたの?」
スマホを使用することがあっても通販サイトを利用することがないからなにかきたとしたら母ということになる、父は全く弄らないからそういうことだ。
「寒いのが苦手だから追加のお布団を買ったの」
「え、それなら自分が使えばいいのに、私にはもう十分揃っているよ」
ただ単純にいきなり持ち上げられれば冷えるというだけで不満があるわけではないから勘違いをしないでほしかった。
「いいからあなたが使いなさい、それとご飯ももうできているから手を洗って」
「分かった」
いつもと少し違かったのはご飯を食べ終えてお風呂に入ろうとしたタイミングで家に大島さんが来たということだった、父が帰ってきていたから先にお風呂に入ってもらうことにしてとりあえず客間の方で話すことになった。
「杉本に直接聞いて解決したわ」
「そっか」
何故最初からそうしておかなかったのかなどと聞くべきではないか、煽りたいわけでもないからこれだけで終わらせておけばいい。
でも、本人に聞いたことで知ることができたということなら自由に言えてしまうわけだから喉ぐらいのところまで出かかっているというのが正直なところだった。
恋愛脳だから仕方がない、可能性が見えてきたら黙ってはいられないのだ。
「あれぐらいなら普通に言っていいでしょ、あんたのせいで無駄に不安定になったじゃない」
「やっぱり気になるんだ、いますぐに一生懸命になったらすぐに変わるよ」
仲良くしているところを私にも見せてほしい、見ることができればそこに私が含まれていなくてもまるで友達かのような気持ちでいられる。
これを口にしているわけではないし、邪魔をしようとしているわけではないのだからいいだろう、これすらも駄目だということなら見えないところで仲良くしてもらうしかない。
「あ、別にそういうのじゃないけどね、私的にはあんたが気にしていたのが意外なだけでさ」
「私が気にする?」
「はは、先輩が相手のときみたいに敢えて小出しにしていくのね」
「待って、ちゃんと答えて」
このままだと気になって眠れなくなってしまうかもしれない、そうしたら放課後にあそこで寝て風邪を引いてしまうかもしれないから避けたかった。
「えー、あんたが答えないのに私が答える義務なんてあるの?」
「ある」
「はは、勝手ね、それでもいま言ったのが全てだからこれ以上はないわよ」
それならこちらの中で勝手にいいように考えてしまえばいいか、ポジティブ思考をする人間だからこれぐらいは余裕だ。
もちろん、差が存在していて後々問題になる可能性もあるけど、一人でいつまでも同じことについて悩んでいてもアホらしいから終わらせた方がよかった。
「じゃ、言いたいことも言えたから帰るわ」
「送る」
「いいわよ、それじゃあ――私にやられたからやり返しってわけ?」
「いいから早く行こう」
もう暗いからあまり時間をかけたくない、走って帰ることになることは確定しているから余計なことで体力を使いたくないのもあった。
家から少し離れてもぶつぶつ文句を言ってきても全て無視をしたおかげでそうかからない内に彼女のお家には着いた。
「風邪を引かないでね、ほら、授業を受けているときに大島さんの背中が見えなかったら気になるから」
「ふーん、あんたは小さいんだから私がいない方が見やすくていいでしょ」
「そんなことよりも大島さんがいてくれた方がいいからちゃんと来て、風邪を引いたら怒るから」
風邪を引いたら治った後にあの場所に連れて行くと言っておいた。
気に入って何回もあそこに行っている私が言うことではないけど、気に入っていない人からしたら退屈な場所だから気をつけた方がいい。
「ただいまっ」
「無理をしないの」
「でも、一人で帰らせたくなかった」
「ふふ、空生にとってあの子は特別なのかもしれないわね」
母はこちらの頭を撫でてから「だって暗いのが怖いのに送ろうとするぐらいなんだから」と言ってきたけど、これまでだって同性をお家まで送ったことがあるわけだから微妙な反応になってしまった。
「七美ー……」
「今日はどうしたのよ……」
「だって寒いんだもん、それに冷えた体を更に冷やしちゃったら風邪を引いちゃうんだから仕方がないじゃん」
「それなら久保にくっついておきなさい」
「無理だよ、受け入れてくれるとは思えないもん」
そのタイミングで大島さんがこちらを見てきた、目だけで聞いてきたから大丈夫だと答えたら「ほら、いいみたいよ」と満足そうだった。
好きなのかそうではないのかがよく分からない、それとも、基本的には私みたいにポジティブにいられるということなのだろうか。
「ほ、本当にいいのかい?」
「うん」
私が動かないで済むならこれがきっかけになってくれればという狙いがあった、もしかしたら悔しくなって「私にしておきなさいよっ」と大島さんの方から抱きしめるかもしれない。
もしそうなったら興奮して教室にはいられなくなるだろうけどそれほどありがたいことはないからいい気分で授業を受けられると思う。
「じゃあぎゅー――うわなにこれっ、滅茶苦茶温かいよっ」
「もう少し声を小さくしなさい」
物理的に三分ぐらいが経過をしても彼女が動き出そうとはしてくれていない、こういう方法では駄目か。
「
「お? 久保さんって私の名前を知っていたんだ」
意外と大島さんが名字呼びを続けているから少し忘れかけていたものの、過去に自己紹介をしたときのことをなんとか思い出した結果となる。
この反応を見るに間違えたというわけではないから安心した、ここから躓いていたらこの作戦を続けることはできない。
「名前で呼んでもいい?」
「うん、いいよー」
「陽子、いまから二人で違う場所に行こ、あ、大島さんに……知られないようにできるかな?」
名字を出した途端にじろりと睨まれてうぐっと固まりかけたものの、なんとか最後まで言い切ることができた。
「いまからということなら無理だね、だって思い切り見られちゃっているもん」
「じゃあ大島さんも一緒でいいから行こうよ」
「とりあえずそれは次の時間に、かな、ほら、もう予鈴が鳴りそうだからさ」
「それなら次の時間にお願い」
「了解、それじゃあまたねー」
手が近づいてきてなにをされるのかと考えている間に頬を掴まれて痛いと漏らす羽目になった、それから「あんた私のことが嫌いよね」と言ってきたからぶんぶんと首を左右に振ったけど効果はなかった。
「え? ああすれば杉本に対して積極的になってくれると思った?」
「うん、やたらと気にしていたから少しきっかけを作りたくて。ほら、大島さんは素直になれないみたいだから――痛い痛い……」
「余計なことをしなくていいから」
そうは言われてもどうしても動きたくなってしまうのだ、自分でも止められないことだから解決するためには動くしかない。
というわけでなるべく迷惑をかけないようにするからと説明しても彼女は頷いてはくれなかった、だからこそこそと動こうと決めた。
先程みたいなのは自分が相手でも下手くそだとしか言いようがないため、余り余っている時間を使っていいやり方というのを探さなければならない。
「つかあんたが動きなさいよ、誰かいないの?」
「いたらここでゆっくりしていないよ」
「いまからでもいいから探しなさいよ、学生の内に恋をしておかないと一生独身なんてことになるわよ」
でも、いま頑張っても結婚までもっていけるかどうかは分からないし、自分が動かなければならない状態になるといまみたいに冷静に対応はできなくなるからやはり駄目だ。
私は見ているぐらいが丁度いい、私を知っている人間であれば同意してくれるはずだ。
「大島さんや陽子がいてくれれば大丈夫」
「そんなに長い関係になると思う?」
「なる、少なくとも大島さんだったら付き合ってくれる」
「なにを期待しているんだか、私はそんなに優しくないわよ」
仮に二人が無理でもそこまで結果は変わらない、働いてお金を稼いで欲しい物を買って自由に生きていくだけだった。
まあ、求めすぎなければ特にトラブルもなく終わると思う、求めすぎてしまうから理想とのズレに嫌になって自ら駄目なものにしてしまうのだ。
「あ、じゃあまあ次の時間ね」
「うん、よろしく」
先生が入ってきてそこで自然と中断となった。
なんとなくこの多くも少なくもない十分という設定がよく考えられているなと上から目線な感想を抱いたのだった。
「やっほー、私も参加しちゃうよー」
待った、次の時間になって言ったのはいいけど特になにかしたいことがあるわけではないぞと固まっていた。
でも、もう陽子も大島さんも先輩も来てしまっているからやっぱりなしということにはできない、私が言い出したのもあって黙っておくというのもできなさそうだけど……。
「あー、ネタバラシをしておくとこいつ、私を煽るためにあんなことを言い出しただけなのよね」
「大島ちゃんを煽るため?」
「はい、だから特になにか考えがあるわけじゃないんですよ」
無理やりにでも前に進めてもらえるのであればそれほどありがたいことはない、陽子の顔が少し見づらいけどこれもすぐに元通りになるはずだ。
「そういうことか、でも、七美はそれぐらいで変えたりはしないよ」
「やたらと気にしていたから効果的かと思っていたけど駄目だった」
「久保さんはもうちょっと七美のことを知るところから頑張らないといけないね」
後悔していて既に変な風に動かないと決めているから迷惑をかけることはない。
というか、自分が加わってしまったら理想とは違う結果になるのになんでこれまでの私は気づけていなかったのかという話だった。
先輩には別に悪いことをしていないけど三人に謝罪をしておく。
「特にないなら久保ちゃんを借りていきたいんだけどいいかな?」
「ご自由にどうぞ、ただし気をつけておかないと余計なことをされますけどね」
「大丈夫大丈夫ー、じゃあ行こう」
一度のそれで今後のやりやすさが変わるというのに私ときたら……。
「今日の放課後、またあそこに行こうよ」
「一人じゃなくていいんですか?」
「よく考えてみなくてもあそこに一人でいるのは寂しいからね、だからあそこを気に入っている久保ちゃんが話し相手になってよ」
ある程度は時間をつぶしたい私にとって先輩のこの提案はありがたいものだった、ありがたいと感じているのに断るのも馬鹿らしいから頷く。
「分かりました、あ、ただちょっと暗いのが苦手なので十八時前には解散にさせてもらいたいんですけどいいですか?」
「おけおけ、私だって寒い中いつまでもいられるわけじゃないからね」
ただ、大島さんや陽子でもないのにいいのだろうかと考えてしまう自分もいる、そのため、誘うかどうかを聞いてみたら「別にいいよ」と答えられて終わった。
余計なことをして失敗をしたばかりだったからでもとは重ねたりはしない、相手がこう言ってくれているのだからと片付けよう。
「久保ちゃんはなんか小さいから気になるんだよね」
「一応、百五十センチはあるんですけど」
「でも、ぱっと見た感じでも大島ちゃんや杉本ちゃんは百五十後半はあるからさ」
「身長が低くても高校生であることは変わりませんし、人並みにちゃんとできているはずですけど……」
大島さんに言われても気にならないのに先輩に言われたら気になるのは一緒にいる時間の長さの違いだろうか? よく知らないのに自由に言ってほしくないという無駄で邪魔なそれのせいなのかな。
駄目だ、卒業までにはなんとかしておかなければならないことだ、こういうことで疲れることほど馬鹿らしいことはないから暗闇克服よりも優先しなければならないことだった。
「別に馬鹿にしているわけじゃないんだよ? でも、気になるから近くにいさせてほしいかな」
「私としてもこうして会話ができるようになったのであれば仲良くなりたいです」
「仲良くか、いいね」
一緒にいて無理だと分かったら遠慮せずに離れてくれればいいと言っておいた。
「私、あんまりじっとできるタイプじゃないから同級生の友達がいないんだ、だから後輩の久保ちゃん達が友達になってくれたらありがたいよ」
「それなら――」
「ちょっとちょっと、名前で呼んできたくせに私のことは放置なの?」
自己紹介をと全てを吐ききる前に陽子が加わった、ちなみにその陽子の後ろに大島さんもいて苦笑した。
余計なことをしなくても勝手に上手くやってしまう二人に対して私は……。
「陽子、のままでいいの?」
「それはいいけど、七美や先輩のところばかりに行っちゃうから許可した意味は? って考えちゃうんだよね」
「ごめん、次からは気をつける」
ただ、陽子は先輩と既に友達なのかすぐに楽しそうに話し始めた、大島さんはそんな陽子を複雑そうな顔で――無表情で見ているだけだ。
こういうことになると大島さんと話したくなるところだけど別行動をするとまたちくりと言葉で刺されてしまうかもしれないから離れずに話しかける。
「余計なことをしてごめん」
「ま、何回も謝らなくていいわよ」
「顔に出るかもしれないけど余計なことはもうしないから友達ではいてほしい」
「あれ、いつの間に私達は友達になっていたの?」
「あ、ごめん……」
そうだ、まずそこからだった。
「なんてね、そんな顔をしないでいいから、あと放課後は私も行くからね」
「それは先輩に聞いてもらわないといけない」
「大丈夫」
大丈夫か、信じ込んでしまうのは危険だけどそう言ってもらえるとやはり違う。
ついついその優しさに甘えて触れようとしたものの、ギリギリのところで止めることができた。
「今回で先輩に慣れておけばいちいち逃げずに済むからね、でも、自分から誘うのは違うからあんたがいてくれてよかったわ」
「うん」
「ただね、逃げたら怒るからね? そこはちゃんと守りなさいよ」
「分かった」
そもそも私が受け入れたわけだから逃げるなんてことはできない、いまだってそれができなかったからこそここにいる形になる。
そのため、そういうところでは安心してくれればよかった、約束はちゃんと守る人間だ。
「久保さんぎゅー」
「空生でいいよ」
多分こっちの名前は覚えていないだろうからボールペンを持っていたのをいいことに腕に書いて見せた、が、「んー、私の方はまだいいかな、もっと仲良くなれたら名前で呼ばせてもらうよ」と陽子は受け入れてくれず……。
「久保ちゃんぎゅー、おおっ、こんなに温かいのか」
「ね、言っていた通りすごいでしょ?」
「すごいよ、抱きしめていれば暖房がいらないぐらいじゃん」
姉妹と言ってもいいレベルでよく似ている、けど、私はそのことよりも陽子がいてくれれば先輩とのことでなにか困ったときになんとかなりそうだということに安心できた。
「馬鹿なことをしていないで教室に戻るわよ」
「「はーい」」
「いや、離してから歩き始めなさいよ、久保が驚いているじゃない」
「「はーい」」
こういう点でも大島さんとはずっといたい、またすぐに悪い癖が出かかっていて抑えるのに大変だった。
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