第5話 リスナーへの説明
『このURLからミーティングソフトに遷移出来ます。ミュート・カメラ非表示のままでOKです。主に俺が画面共有で見せるのを見てもらって、コメントしてくれたらいいです。初めての人もいると思うので、一時間後に開始したいとおもいます。』
咲也はすでに保持していた無料ミーティングソフトから共有用URLを作成し、先程まで配信に来てくれていた3人へとTwittoから簡潔に内容を記したDMを送信した。
アカウント作成などをする場合も鑑みて、一時間後からの開始とした。他にも理由はいくつかあったが。
あのまま配信上で続けるというのも考えたが、全世界へ公開されている状況を考えると、万が一にも他の人に見られるリスクは避けたかったのだ。
全員が来てくれるわけではないかもしれない。
そう思った咲也だが、まあ少なくとも1人くらいは来てくれるだろうとも思っていた。
まずは1人でもいいから誰かに状況を説明し、そこから残りの2人にも一緒になって説明してくれればいいかなとも考えている。
楽観的ではあるが、その程度には3人の事を信頼しているとも言えた。
「さて、一人くらいは来てくれるのかねぇ」
「うぅぅぅ……」
いそいそと準備を進める咲也の傍らで、のぺ子は小さく蹲ったままひどく落ち込んでいた。
のぺ子くしゃみ事故の後、最後のコメントを言ってから慌てて配信を切った咲也だったが、配信を切った瞬間にのぺ子が大泣きしてしまった。
何度も謝りながら、わんわんと泣くのぺ子を、そもそもちょっかいを出したのは自分であり、のぺ子は何も悪くない。
もし仮に問題が起きて配信できなくなったとしても、のぺ子には非は無いから、と何度も説明し、やっと泣き止んではくれたものの、今もこうして蹲りながら唸っているのぺ子だった。
このまま慰め続けても恐らくすぐに立ち直らないだろうと判断した咲也は、我が事ながら冷たいなと思いつつも準備を進めるのだった。
「ほんと魔が差したというか、のぺ子を撫でられるのかが気になっちゃってね」
「うぅっ……急にあんな事したらダメだにぃ……」
「撫でられてる感触はあったんだ?」
「うん……初めての事でびっくりしたけど、気持ち良かったんだにぃ」
多少落ち着いてきたのか、平常に戻りつつあるのぺ子のトーンに、ほっと息を吐いた咲也。
「まぁとりあえず出たとこ勝負じゃないけど、3人に見てもらおうよ。混乱はするだろうけど、ね」
時間をかけてきちんと説明すれば、誰かは理解してくれるだろう。
仮に理解は出来なかったとしても、納得はしてくれればいいかな、とも思う咲也だった。
◆◆
「そろそろ時間だから始めるぞー?」
「き、緊張してきたにぃ…!」
「大丈夫だから、落ち着けって」
「だ、だってぇぇ」
のぺ子の開きっぱなしの瞳孔を見て、思わず苦笑する咲也。
テキパキと準備を進める咲也を見ているうちにだいぶ落ち着いたのか、蹲るのをやめたのぺ子だったが、今度は迫る開始時間に緊張していた。
のぺ子からすれば咲也のもとにやってきてから咲也以外で初めて交流する他人であり、限定的とはいえその姿を晒す事となる。
軽く考えている様子の咲也を見ていると尚更緊張は増していき、自分自身でも一体何者か分かっていないのに、まるで本当に生きているかのように焦燥にも似た、心臓のうるさいくらいの鼓動がのぺ子の耳に鳴り響くのだった。
「ログインしてっと、おっ、早速入ってきてくれるみたいだ!」
「……」
咲也が共有したURLからログインすると、早速入室リクエストがポップアップされて承認する。
誰か1人くらいは来てくれるかなと考えていた咲也だったが、ありがたい事に3人とも来てくれたらしい。
ミュート・カメラ非表示とはいえ、いつもの配信と変わらないと考えれば、幾分か咲也の気も楽になった。
今も画面の端で両手を強く握りながらガチガチに緊張しているのぺ子を見て少し心配になるが、ひとまず始めることにした。
「3人とも来てくれてありがとう、それとさっきは変な終わり方してごめんね。どうしても他の人に見られる可能性を避けたくて、無理言って3人には配信じゃなくてこっちに来てもらいました」
:それはさっきのくしゃみが原因?
「おっ、ちょっとコメントがいつもと違うから変な感じだな。やまぴーさんそうだよ。さっきのくしゃみに絡んだ事でどうしても3人にだけ見てほしい事があったから」
やまぴーというリスナーが早速コメントする。
咲也が予想するに、このリスナーが固定3人の中で最年少と見ており、こういったものにも慣れているのかもしれないと考えた。
逆に最年長のワキは売れない写真家と自分から言っていて、もしかしたら慣れていないかもしれない。
「ちなみに、コメントはここから打てるからね」
すでにデスクトップを画面共有した状態だった咲也は、マウスカーソルを動かして、コメント入力ボタンを示す。
少し前までは何度もこういったサービスを使用していたので、咲也からすればお手の物だった。
:これでいいのかな?
:それくらいは俺でも知ってるぞ!
「あはは、ごめんワキさん知らないと思って! むしろちょみさんが初めてだったのかな、まぁ確かに主婦さんからすれば使う事ないかもしれないね」
咲也の言葉に、憤慨しているぞ! とでも言いたげなワキと、逆に初めての利用だったちょみが早速反応してくれる。
それからも幾つか咲也と3人の間で会話が続く。
ひとまず和気あいあいとした雰囲気で、いつもに限りなく近い雰囲気でスタートできたとほっとする咲也だった。
ちらりとのぺ子に視線を向ける。
咲也とリスナーの様子をじっと固まったまま見ていたのぺ子だが、先程までよりは若干緊張の色合いは薄まっているように咲也からは見えた。
「さて、そろそろ本題の方に入ろうと思います。とりあえず色々と見せていくけど、たぶんめちゃくちゃびっくりすると思うから、落ちついて見てね。ね?」
ね? と言いながらのぺ子に顔を向ける。
びくり、と僅かばかりに動くのぺ子だが、咲也がしっかりと視線を合わせて頷くと、小さく息を吐いてからしっかりと頷き返した。
:一体何を見せるんだ……
:ちょっと怖いかも
:犯罪とかじゃなければいいが
「あ、とりあえずやばい事とか全然そんなんじゃないから! 意味不明な部分は一杯出てくるかもしれないけど、先にそれだけは言っておきます!」
:なら安心
:さすがに危ないのはねぇ
:見てから決める
「おけおけ、みんなの反応も見たい事だし、早速だけど紹介したいと思います。それでは、登場してもらいましょう、どうぞー」
「……」
のぺ子が3人の前に姿を現しやすいように、あえて剽軽にのぺ子の登場を促す。
だが、咲也の視線を見て、不安そうに小さく首を横に振るのぺ子。
「大丈夫だよ。それにほら、さっき言ったことは本当だから、ね?」
もしも3人が目の前の光景を理解出来なくて、拒否されてしまったとしても咲也からすればそれならそれで良かった。
配信がダメになる可能性があるとはいえ、そもそもがまともに認知すらされていないのだ。
本音としては配信にそこまで力を入れているわけでもない。
たまたま見つけたものが配信だっただけで、明日からしなかったとしても、咲也にすれば別段困るものでもない。
とてつもない虚無な時間をどう過ごすかという問題はあれど、それものぺ子がいれば大した問題ではないと思っていた。
「うぅ……は、恥ずかしいにぃ」
「大丈夫だって、ほら2人だと思ってさ」
「2人じゃないにぃぃぃ」
「うーん、じゃああれだ。友達を作ると思えばいいんだよ」
「ともだち、かにぃ?」
「うんそうそう、ほら俺はパパなんだろ? じゃあ今度は友達を作るくらいの感じで考えればいいと思うよ」
「ともだち……、うん、友達!」
:にぃ?
:どういう事なのかしら?
:よく分からんけど待ってる
「ほら、みんなも楽しみに待ってくれてるよ。慌てずに大きく深呼吸して」
「すぅ……ふぅ……」
咲也の言葉に、強く握りしめていた両手を広げ、大きく深呼吸するのぺ子。
「せっかくこうやって話せるように、遊べるようになったんだからさ、もっといっぱい楽しい事を見つけたらいいと思う」
どの面下げてこんな事を言っているんだと心中で自虐しながら、咲也はのぺ子に励ましの言葉をかける。
「パパも……」
「うん?」
「咲也パパも、一緒に遊んでくれるかにぃ?」
「え? あ、うん、勿論」
「わかったにぃ!」
え、そこ? と思わず言いそうになった咲也だが、どうやらのぺ子からすれば咲也の言葉に気を良くしたらしい。
そして、未だ気恥ずかしさを見せながらも、画面の端からおずおずとのぺ子が3人の前に姿を現した。
サブディスプレイの端からいきなり画面に現れたのぺ子に、コメントが続く。
:え、なにこれ
:のっぺらぼう、かな?
:のっぺらぼうだな
「紹介します、この子はのぺ子。俺が買ったこのゲーミングPCの中で生きていた……何なんだろう?」
「うぅ、のぺ子だにぃ。……やっぱり恥ずかしいにぃ」
:どゆこと
:あの格安PCって事だよね?
:これはちょっと意味がわからんな……
さすがに3人も混乱しているのか、話題があちらこちらへと飛び交う。
とはいえ、咲也からしてもこういった流れになる事はある程度予想出来ていたので、なかば3人をスルーして説明を続ける。
「ほら、俺がなんかゴソゴソ音が聞こえるって言ってたでしょ? あれが実はのぺ子が動いてる音だったらしい」
「できる限り聞こえないようにしたつもりだったにぃ」
「だからこそ、3人には聞こえなかったんじゃない? ゲームのBGMとかで消されてたのかもしれない」
「のぺ子には分からないにぃ……」
「ま、それで緊張しすぎて寝てたっていうのは笑えるけど」
「恥ずかしいからそれは言っちゃダメなんだにぃ!」
:え、え?
:あの、全然ついていけないんだけど
:一から十まで理解が追いついてないな
「おっとそうだな、ちょっと順を追って説明するよ」
「にぃぃ……」
すっかり気を抜いて寝ていたところを思い出さされたのぺ子は、両耳を赤らめながら恥ずかしがっているが、咲也は置いてきぼりのままにしていた3人に説明を進めるのだった。
◆◆
:こういうのってなんていうの?妖怪?
:物に宿る神様っていうのかしら
:敢えて言えば付喪神ってやつか
「俺は妖怪というよりも、最初に見た時は幽霊かと思ったけどね」
思わず怖くて部屋の電気を全部点けちゃったよ、と笑いながら咲也が言う。
ある程度の説明を終え、ひとまずのぺ子の存在がどういったものかは3人に伝えられた。
:でも、のぺ子ちゃん? くん? を見ただけで手放そうと思うくらいに怖かったのかしら?
ちょみの指摘に残りのリスナー2人も賛同する。
その言葉尻からも分かるように、3人からすれば未だ疑問に思う点は多々ある。
単純にのペ子だって何かのソフトで動かしているのでは?
CGやアテレコをすればやってやれないのでは?
などといった疑問だ。
それらを咲也が行う事に何の意味やメリットがあるのかは分からないが、そもそも今見ているものが超常現象じみており、そう簡単に理解出来るものではない。
「確かにちょみさんの言う通りだね。のぺ子にはまだ見せていない能力? 特技? があるんだよね」
咲也はそう言いながら、自分の立ち絵を画面の端に映す。
リスナー3人も見慣れている姿であり、それが単なる静止画であり、動かないのはよく知っている。
「これはいつも配信で使っている俺の立ち絵だけど、これを使おうと思います」
咲也はそう言いながら、一旦自分の立ち絵を画面から消す。
もしかしたらこの場でのぺ子が憑依出来るのかもしれないが、のぺ子曰く着替えるような感覚だと言ったので、それならば人前で着替えさせるのは違うよなという配慮からだ。
「という事で、のぺ子お願い」
「わかったにぃ!」
3人からの質問にいくつか答え、ある程度コミュニケーションが取れて安心したのぺ子は颯爽と画面から姿を消した。
その間も咲也は会話を続けるが、3人にも聞こえるくらいの音でゴソゴソと何やら準備しているのがわかった。
:確かにこの音が真夜中に聞こえてきたら怖いかも
:1人だったら尚更かもしれないわね
:その後で驚かされたらチビるかもな
「あはは、まぁ俺は驚かされる前に画面上でグースカ寝てるのぺ子を見たから、むしろ呆気に取られちゃったけどね」
「それは言ったらダメって言ったにぃー!」
着替えているのぺ子にも咲也の声が聞こえたのか、少し離れた場所から大きな声で怒ったのぺ子の声が3人にも聞こえた。
:めっちゃ怒ってるけどw
:でも何だか嬉しそうで良かった
:ちょっと眩しいくらいに生き生きしているな
「これも親子のコミュニケーション? って事で許してくれるでしょ」
「のぺ子は怒ってるにぃ!」
のぺ子の言葉に思わず笑ってしまう咲也。
そうこうしているうちにのぺ子の準備が整ったようだ。
「咲也パパ、大丈夫だにぃ!」
「おっけー、んじゃ改めて登場どうぞー」
「ばーん、だにぃ!」
のぺ子がそう言いながら画面に現れる。
その姿は先程までののっぺらぼうではなく、咲也の立ち絵に着替えたものだった。
「こんな感じでイラストや画像のキャラに乗り移れるんだよ」
「動くことも出来るにぃー♪」
:は?
:やっぱり意味がわからないわ…
:いや、これはどういう原理なんだ?
やはりというべきか、またしても混乱する3人に落ち着いてと声を掛ける咲也。
「3人が混乱するのも無理は無いよね。正直、これを見てもらうまでは疑ってた部分があったと思うし」
:うん
:それは、まぁ
:そうだな
咲也の言葉に頷く3人。
「ちょみさんのさっきの質問に戻るんだけど、のぺ子はこうやってキャラに乗り移れるでしょ? だからのぺ子は幽霊とか怖いキャラに乗り移って前の所有者さん達を脅かしたらしい。のぺ子、他のにも着替えてきてみて」
咲也が続ける説明に、少しずつ落ち込むのぺ子。
咲也の立ち絵でひとしきり動き終えると、裏に引っ込んで他のキャラでも何度か動き回る姿を見せる。
実際にその場でいくつかのサイトからキャラ画像をダウンロードし、それを動かす事でようやく3人も咲也の言葉を理解し始めた。
:そりゃゾンビとかで出てこられたらビビるね
:でものぺ子ちゃんも悪気があったわけじゃないんでしょう?
:寂しかったんだよな
やまぴーは過去の所有者の事を同情し、残り2人はのぺ子に寄り添うようなコメントをした。
特に子供がいると言っているちょみの言葉はやはり子供の事を考えて言っているんだろうな、と咲也はなぜか嬉しくなった。
「うん、ずっとずっと寂しかったんだにぃ。真っ暗でひとりぽっちで、声も出せなくて。そうやってずっと真っ暗な中でいたら何だか寒くて、悲しくって……」
ーーでも、やっぱりあんな事はしちゃダメだったんだにぃ。
そうぽつりとこぼすように言うのぺ子はしくしくと涙を流した。
「だから今回こそは何とかしなきゃって。もう真っ暗な中でずっとひとりぼっちは嫌だって……」
:かわいそう
:うん、のぺ子ちゃん私と友達になりましょう?
:辛かったな
「でも! 今は咲也パパが一緒にいてくれてとっても嬉しいにぃ! それに名前も付けてくれたんだにぃ!」
:でも、のぺ子は無い
:咲也くんがせっかく付けたとは言っても、ねぇ……
:安直すぎるだろ
「あはは……まぁあくまでも仮の名前だから! ちゃんと考えるから!」
「のぺ子はのぺ子でもいいにぃ?」
「いや、さすがにのぺ子のままは俺もちょっと…と思ってたから」
「のぺ子は何でも嬉しいから、ゆっくりでいいにぃ」
:なんだ天使か
:無邪気な妖精かも
:のぺ子も配信に出すつもりなのか?
「あー……のぺ子を配信に、かぁ。ちょっとそれは考えて無かったなぁ……」
「ふあぁぁぁ……」
ワキの指摘に天井を見上げる咲也。
咲也からすれば、どうやって配信に乗せないようにしようかとばかり考えていた為、そもそも配信に出すという思考自体がすっぽりと抜け落ちていた。
名前を呼ばれたのぺ子は、会話の意味がわからなかったのか、はてなマークを頭の上に乗せながら咲也と3人の会話を交互に見合わせる。
咲也はそんなのぺ子を見て、何となくマウスでのぺ子の頭を何度か優しく撫でた。
「その辺は追々考えるかな。この姿のまま出すのもどうかと思うし……」
3人に見られる分には問題ないが、配信に乗せる以上は一般リスナーに見られても仕方ない。
メンバーシップ限定配信という手もあるが、咲也の登録者数ではとてもじゃないがその機能を使えるレベルにまで達していない。
:出すとしたらのぺ子の立ち絵も用意してあげないとね
:のぺ子ちゃんかわいい
「あ、やまぴーさん実は配信に出すとかとは全然別で、考えてる事があってーー」
咲也は自分の立ち絵を書いてくれたイラストレーターとの関係や、咲也の立ち絵作画以前以降の件についても説明を続ける。
その際の条件や制約についても。
:この人めちゃくちゃ有名なのも色々書いてるじゃん
:不思議な事もあるのね
:有名な人なのか?
「普段からゲームとかアニメ見てる人なら分かるくらいのタイトルがいくつも並んでるからね。たぶんイラストレーターとしては一流クラスに入っているんじゃないかな?」
「ママは一流なんだにぃ??」
:正直、咲也が書いてもらうレベルじゃない
:差し迫ってお金が欲しかったとか?
:条件を見る限り、受けないはずの仕事を受けているからそれも違うかもな
「ま、でもその辺りはいずれにせよイラストレーターさんから返信の連絡が来ない限りは前に進まないから、それまでは今の姿のままかな」
:名前はちゃんと考えてあげないとダメだよ!
:やまぴーさんの言う通り、名前はその子を表すものなんだから
:咲也の絵が分かれ目なのがわからんなぁ
「やまぴーさん、ちょみさん、ちゃんとそれは考えるから! ワキさんはまだ気になってるんだ?」
「のぺ子はみんなと一緒にいれるなら、何でもいいにぃー♪」
安直に付けた仮名の事を蒸し返されて咲也は慌てて話題を変えようとする。
ワキというリスナーは未だに咲也の立ち絵作画にまつわる点について腑に落ちないでいるようだった。
のぺ子はもうすっかり安心したのか、画面上でくるくると舞? のようなものを踊っていて見ているだけでも楽しげなのが全員に伝わった。
「俺もその点はよく分からないけど、考えても仕方がないしね。もし返信が来ても変なイチャモン付けてくるなら今回はバシッと言うつもりだから」
「ケンカはしちゃダメなんだにぃ?」
「そんなんじゃないから大丈夫だよ」
:でも、確かに胡散臭いから気を付けないと
:のぺ子ちゃん第一で考えないと、ね!
:ヤバそうならさっさと切るべきだな
件のイラストレーターを警戒する点については3人も同意する。
当初の条件などを考えると、今回ののぺ子を我が身可愛さに食い物にされる可能性だってあるのだと咲也は見ていた。
そんな私利私欲にのぺ子を巻き込むわけにはいかないと、机の下で見えないように拳を握った。
「それじゃあ……」
「ん?」
咲也がそんな事を考えていると、のぺ子が何かを言いたそうにしているのが見えた。
照れくさいのか、また耳が少し赤くなっている。
だが、見る限りはどこか楽しげな、しかし嬉しそうな声色だ。
「みんなは、のぺ子とともだちになってくれるにぃ……?」
「かわいい」
:かわいい
:うん、やっぱり天使ね
:庇護欲を掻き立てられるってこんな感じなんだな
「あぅ、あの、それであの……」
「あぁごめんごめん、ちょっとのぺ子が可愛くてみんな止まっちゃってたわ。みんなどうかな、のぺ子の友達になってくれる?」
:もちろん
:こんなかわいい友達なら大歓迎!
:まさかこの歳になって友達が出来るとは、な
異口同音だが、3人のコメントを見て、のぺ子がぱあぁぁぁっと大きく笑顔になった。
「じゃあ…!」
「みんなものぺ子と友達になりたいってさ」
「わーい! やったにぃ!! 友達が3人もできたにぃー!」
ぴょんぴょんと飛び跳ねながら喜ぶのぺ子を見て、3人に紹介して良かったと今更ながらに安堵する咲也だった。
◆◆
その後も小一時間ほど3人と時間を過ごした咲也とのぺ子。
途中からはリスナー3人の要望したキャラに着替えてみたりなどでも遊んだ。
とりあえず当面は配信には乗せないこと、のぺ子は比較的睡眠時間が少ないので、空いた時間が合った時にはこうして遊んでもらう事をお願いした。
とはいえ、それもあくまでも3人の好意に拠るものであり、無理はしなくていいなどを合わせて伝える。
すっかり溶け込めて安心したのか、極度の緊張感から解放されてうつらうつらとし始めたのぺ子を見て切り上げる。
何一つ解決したわけでも、解明したわけでもなかったが、のぺ子が笑えたならまあいいかと咲也は満足した様子で今日の集まりを終えた。
さすがに恥ずかしいのか、手頃なフォルダに隠れて眠る事にしたのぺ子を見送り、手持ち無沙汰になった咲也。
ゲームでもしようかと思いつつブラウザを立ち上げると、メール受信のポップアップがピコン、と立ち上がった。
あれ? と思いながらおもむろにクリックしてメールボックスを開く。
「え、えぇぇ……」
そこには驚くことに、先程メールを送ったばかりのChacoから返信メールが来ていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます