第11話 流れ星

「え、なにこれ…」

自転車を漕ぐ昴の肩に手を掛けて立ち乗りしている千珠琉は、空を仰ぎながら戸惑っていた。

「何って、流れ星。100%見れるやつ。」

「え?意味がわかんない…」

「俺たちに合わせて星が流れてるだろ?」

ゆっくりと坂道をくだりながら昴が言う。

「え〜〜…流れてるっていうか…空と一緒に動いてるよ…」

驚きと落胆を見せる千珠琉に昴は笑ってしまう。

「あー!笑ってる!ひどいよ〜…これじゃ願いごと叶わない…」

今日はとくに強く願いたいことがあったので、前の昴にも伝わるくらいシュンとしてしまう。

———キュッ

昴が自転車を止めた。

「ごめんな。チズが流星群見たがってたの知ってたから気分だけでも味わえないかなって思ってさ。まぁあれだよ、信じる者は救われるってやつ。」

無理のある発想だが、昴が千珠琉のことを想って真剣に考えてくれたんだろうということは伝わった。そもそもこの誘いがなければ、いまだに会うきっかけが掴めなかったはずだ。

(昴は考えくれたのに。残りの時間を大事にしなきゃいけないのに…文句言って最低だ、私。)

「…昴…ありがと。…信じる。」

千珠琉がそう言うと昴はまた自転車を進めた。流れ星を見ているというには少しシュールななのが否定できないのは、もちろん昴にもわかっている。


(昴とずっと一緒にいられますように)


(昴とずっと一緒にいられますように)


(昴とずっと一緒にいられますように)


この奇妙な流れ星は流れ終わることがないおかげで願いごとを3回言うのが簡単だった。

3回ゆっくり頭の中で願いごとを唱えてみたら、叶えるのが難しい願いだという実感が湧いてしまい切なさがギュッと千珠琉の喉の奥を掴んだ。それと同時に、昴の肩に掴まる手にも力が入る。

「チズ、何のお願いしてんの?」

「秘密」

「ケチ」

「願いごとは口に出したら叶わない、でしょ?」

「…………」

千珠琉の言葉に昴は一瞬沈黙した。

「…本当にまだそれ信じてんの?」

そんなつもりはないかもしれないが、突き放すような言葉に千珠琉は少しだけ驚き落胆した。

「昴が言ったんだよ。」

「…わかってるよ。」

そう言うと、昴は少しの間無言になった。

そしてまた自転車を止めてから、ゆっくりと言葉を探すように口を開いた。

「あのさ…」

昴が口を開くと、千珠琉は自転車から降りた。

「なに?」

「…俺は…チズにそう言ったことずっと後悔してる。」

「———え…?」


「“願い事は口に出したら叶わない”なんて言わなきゃ良かった。」

「………」

「チズ…ずっと自分に言い聞かせてるだろ。」

昴は千珠琉の目をじっと見て聞いた。

「言ってる意味がよくわかんない…」

「それ言ったの…父さんが死んでしばらくした頃だっただろ?」

「うん…。」

中学の頃の記憶が頭をかすめる。

「猫…ルルのこともあって、チズが自分の願いは叶わないって泣いてて…叶わなかったのは仕方ないことなんだって言いたくて、それであんなこと言ったけど、そのせいで逆に…口に出した願いごとは絶対に叶わないって思うようになっただろ?」

昴の言っていることは当たっている。

「父さんもルルも、自分が願いごとを口に出したからいなくなった…って思ってるところ、あるよな。俺にはずっとそう見えてるんだけど。」

「…それは…」

ずっと胸の奥につかえていたものだった。

「それがチズを苦しめ続けてるってわかってたんだ。なんていうか…呪いみたいに…」

「そんな…でも…」



———じゃあ願いごとはどうしたら叶うの?



胸の奥につかえていたものは、心の支えでもあった。今、それが取り払われようとしている。

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