第7話 ニュース
夏休み、昴は宣言通りほとんどバイトをして過ごしている。全く会えないというわけではないが連日のバイトのことを考えると、この暑さの中疲れているだろう昴を遊びに誘って良いのかわからない。
そんな悶々とした日々を過ごしていた8月の初め、千珠琉にとって嬉しいニュースと、これ以上ないくらい最悪の報せが舞い込んだ。
『明後日はペルセウス座流星群の極大日となります。ではお天気は…』
「えっ!」
ダイニングで遅めの朝食のパンにかぶりついていた千珠琉はテレビのお天気情報に反応して寝ぼけていた目を覚ました。
「八重さん!また!流星群だって!」
キッチンにいる母にテンションの高い声で話しかける。家でも“八重さん”という呼び方がお決まりになっている。
「あんた本当に好きね、そういうの。」
八重子は、さっきまで寝ぼけ
「また昴と一緒なら見に行っていいでしょっ?」
「いいけど、昴君だって忙しいんだからあんまり迷惑かけたらダメよ?」
「あぁ昴のバイト?一晩くらい大丈夫じゃない?」
「バイトも忙しいみたいだけど、今は引越しの準備とかもあるでしょ?」
「そんなに長い時間拘束するわけじゃないし…」
八重子の言葉を気に留めずに話し続けた千珠琉だが“引っ越し”というワードをワンテンポ遅れて頭が認識した。
「———え?」
八重子の口から予想していなかった単語が発せられたことに意識が追いついた。
「寂しくなるわよねぇ。ずっとお隣だったのに。」
「え?引っ越し?誰が?」
「あら昴君から聞いてないの?お隣もうすぐお引越しするのよ。」
「え、なんで急に?」
「
朱代は昴の母である。
「朱代さんに庭のお手入れの相談ができなくなっちゃうの寂しいわ〜。まぁおめでたいことだからいいんだけど。」
八重子の呑気な言葉はもう千珠琉の耳には届いていない。
千珠琉はスマートフォンを手に取ると、即座に震える手でメッセージアプリを起動した。
【引っ越すって本当?】
バイト中かもしれないと思いつつ、メッセージを送信した。
予想に反してすぐに“既読”の文字が表示された。
(バイト中じゃなかったんだ。)
ドキドキしながら昴の返信を待つ。昴の口から聞いていない以上、八重子の言葉でも信じられない。もしかしたら昴は残るのかもしれないなど良い方向に考えてみるが、希望はすぐに打ち砕かれた。
【本当】
「……ほんと…」
思わずポツリと口に出す。
【どこに?】
【東京】
「とうきょう…」
夏休み前、“ ……うん、俺も東京。”と言った昴の顔を思い出す。
(…なんだ、進路じゃないじゃん…)
【いつ?】
【8月末】
「え、そんなすぐに…?」
今月末には昴は引っ越してしまうという。
(昴の隠し事ってこれだったか…。)
急に妙に冷静になった。
【なんで隠してたの】
【隠してたってわけじゃないけど】
(隠してたじゃん…)
歯切れの悪い昴の返信に腹立たしさを感じる。
【チズ、今時間あったら会えない?】
昴から連続でメッセージが届いたが、千珠琉は返信しなかった。
しばらくして何度か昴から着信があったが無視した。
返信できなかった、無視するしかなかったが正しい表現かもしれない。驚きとショックと怒りで、昴に何をどう伝えれば良いのかがすぐにはわからなかった。会ったら会ったで、ひどい言葉を浴びせるわがままな自分になってしまうことが容易に想像できてしまう。
(どうして…?)
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