第6話 帰り道
「もうすぐ夏休みだね。」
いつも通りの帰り道、千珠琉が言う。夕方とは思えない強い陽射しの中、セミの声がうるさいくらいに響いている。
「早いな。」
「えーそう?やっと夏休みって感じだよーこんなに
「それもそうか。」
昴がなんだか上の空で遠くを見ている気がする。
「昴なんか元気ない?夏バテ?」
何気ない問いに昴はハッとする。
「いや、ちょっと考え事してた。コンビニ寄って帰ろうぜ、ぺピコ買おうぺピコ。」
(なーんかまたはぐらかされた…)
「昴ぺピコ好きだね。」
2つ繋がったアイスをパキッと切り離している昴に言った。
「そりゃそうでしょ、2つ入ってるんだから。」
「ヒャ!」
言いながら昴が千珠琉の頬にアイスを押し付けたので、変な声が出てしまった。
「ヒャ!だって。チズの顔サイコー。あはは。」
「さいてー!!でももらうー…。」
千珠琉は笑う昴を恨みがましい目で睨むとアイスを食べ始めた。
「ぺピコってなんでチーズ味無いんだろうな。」
昴が言った。
「えー…美味しくなさそう…。あ、でもチーズケーキ味ならありかな…。」
千珠琉は真剣に考える。
「すげー真剣に考えるじゃん。」
「冷たくておいしー!」
「アイスなんだから当たり前だろ。」
「そうだけどー…」
また少しムッとして昴を見た。
「チズは本当にころころ表情が変わるね。」
「…ガキっぽいとか単純とか思ってるでしょ…」
「いや、かわいいと思うよ。」
昴は千珠琉を見て優しく笑いながら言った。
「え……っっっ!」
予想外の答えにわかりやすく赤面してしまう。“妹的なかわいさ”とか“ペットに感じるかわいさ”だろうとは思うが、面と向かって“かわいい”と言われたらキュンとしてしまう。
「昴、進路の紙出した?」
急いで次の話題を探した。
高2の夏、千珠琉たちの高校では具体的な進路を提出する。
「…千珠琉は?」
質問で返されて、また引っかかりを感じてしまう。
「…出したよ。」
「東京の大学だっけ?」
「うん、M大。昴は?昴も東京行きたいって前は言ってたよね。」
「……うん、俺も東京。」
昴の口から“東京”と聞いて少しホッとした。高校を卒業しても近くにいられる。でも不思議と胸の奥のモヤモヤとしたものは濃くなっているような気がした。
「あ、そういえば行きたい夏フェスがあるんだ。一緒に行こうよ。ヘッドライナーが…」
「ごめん千珠琉。俺夏はほとんどバイトだから、他の人と行って。」
千珠琉が言い終わらないうちに断られてしまった。“ほとんどバイト”ということは、フェスに限らず遊べないということだ。
「………じゃあ行かなぃ…。昴以外に音楽の趣味が合う人いないもん…。」
とっくに空になったアイスの容器をきゅっと握りしめて、千珠琉は目を伏せた。
(去年…来年は一緒にフェス行こうって言ったのは昴なのに。)
「ごめん。」
(謝らなくていいから、そんなにバイトする理由教えてよ。隠してること、教えてよ。)
「ううん、大丈夫。バイト頑張ってね。」
いろいろな負の感情が込み上げてしまい、それだけ言うのが精一杯だった。まだ明るい夏の道が千珠琉の気持ちとは正反対のように感じて、余計に虚しくなった。
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