第5話 告白
昴は恒が亡くなったすぐ後、中学の先輩と付き合い始めた。
「すーく…昴、
中学2年の千珠琉が訊ねた。
「ん?うん。」
隠す風でもなく答えた昴に胸がキュ…と軋むような感覚を覚えた。
「…どうして…?」
「どうしてって、告られたから。」
この頃の昴は恒が亡くなったことで所属していたバスケ部も休部するなど精神的に荒れていることが見て取れた。
七瀬先輩は女子バスケ部の三年生だ。
「ふーん…そうなんだ。」
平静を装ったが、胸がざわざわして堪らなかった。
(やだ やだ やだ やだ…)
千珠琉は自分が昴に対して恋愛感情を持っていることに、この時初めて気がついた。
それまでは自分以外の女子と必要以上に絡んでいるところを見たことがなく、14年間誰かに嫉妬する場面がなかった。それが初めて、自分以外の女子と昴が自分が知らないところで親密になっている。
「七瀬先輩のこと好きなの?」
「恋愛としてって意味?」
「ん、うん…」
自分でも余計な質問をしてしまった気がした。「yes」と言われたら、気づいた瞬間に失恋してしまう。
「いや、わからん。」
昴の答えは予想と違った。
「わかんないのに付き合ってるの?」
「………別に良いじゃん。付き合ってたら好きになるんじゃね?むこうだって部活引退してヒマなだけだろ。」
ツンとした物言いで昴が答えたので、千珠琉は何も言えなかった。
恋愛感情に気づいたのはついさっきだし、傷は浅い、気づかなかったことにしよう、と決めた。
それからしばらくした10月の初め頃、今度は千珠琉が男子から告白された。
「え、わたし!?」
急な告白に千珠琉は驚いて聞き返した。
相手は同じクラスの
「え、なんで…急に…え、え…?」
「ああ、うん、急だって思うよね。」
千珠琉はコクっと小さく頷く。
「昴が七瀬先輩と付き合ってるのは知ってるよね?」
永井の言葉に千珠琉は唇をきゅっと結ぶ。
(……なんで聞きたくないこと言うかな…)
「ずっと駒谷のこと可愛いなって思ってたんだけど、いつも昴と一緒だから、付き合ってるのかと思って声かけらんなかったんだ。だから昴が別の人と付き合ってるって聞いて、なら俺も駒谷と付き合いたいなって思って。」
千珠琉は驚きと、昴と七瀬先輩が付き合っていることを改めて思い出したことで無言になってしまった。
「今すぐ答え出さなくて良いから、ちょっと考えてみて。」
その日家に帰るまでの間、千珠琉は永井のこと、それから昴と七瀬先輩のことを考えて授業も
家に帰っても考え込んでしまうので、夜コンビニへ行くことにして家を出たところで昴に会ってしまった。
「よっ。」
「昴。」
「コンビニ?一緒に行っていい?」
「いいけど…。」
なんとなく気まずい。なんでこのタイミングで昴に会ってしまうのか。
コンビニで千珠琉は飲み物とチョコを、昴はアイスを買った。
「ちょっと公園寄ってかない?」
昴が提案した。
「慎之介に告られたって聞いたけど。」
ブランコに腰掛けた直後、いきなり言われて何故かギクッとしてしまう。
「う、うん。急にびっくりだよね。」
「なんて答えんの?」
昴の矢継ぎ早な質問に千珠琉は少しイラッとした。
「今考えてるよ。昴に関係なくない?」
(自分は七瀬先輩と付き合うって知らない間に決めたくせに。)
昴は立って緩やかにブランコを漕いでいる。
「まあ関係ないけど。」
「………。」
「関係ないけど、七瀬先輩と別れた。」
「———え?」
なんで今それを言うのか、なんで別れたのか、一瞬で「なんで?」が渋滞する。
「千珠琉、父さんが死んだ時「私の願い事は叶わない」って言ってたじゃん?」
「え、うん…」
唐突な話題に戸惑う。
「願い事って口に出したら叶わないらしい。この前テレビで言ってた。」
「えっ!そうなの!?」
昴の発言に驚いて思わず大きな声を出す。
「だから俺と七瀬先輩が別れるのも当たり前だし、チズも慎之介と付き合わないよ。」
「…ん??なんで?」
「七瀬先輩も慎之介も、付き合いたいって声に出して願ったから。」
全く根拠がなく、昴は七瀬先輩と一瞬でも付き合ったのだから筋も通っていない説明だったが、本心では永井の告白は断りたかったし、昴と七瀬先輩が別れたと聞いて嬉しくてそれで良いと思ってしまった。
「チズは本当にくるくる表情が変わるな。」
昴が呆れたように笑った。
そうして二人は今まで通り、彼氏彼女のいない幼馴染に戻った。
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